*第一章 巫女との出会い
紅南国。
守護神は朱雀。若い帝が治める温暖な国の都に、一人の僧侶が降り立った。
文字通り、である。彼は何処かから歩いてきたわけではなく、虚空に浮かんだ笠から地に降り立ったのだ。
「だーっ、着いたのだぁ」
独特の語り口調でそう呟くと、自身が先程くぐってきた笠を頭に被る。どういう仕組みになっているかは、持ち主である当人もよく知らない。
ここは中心街の裏通り、何故か狙いを少し外してしまった事に首を傾げながらも、彼は真っ直ぐ前を見据えて賑やかな表へと歩き出した。
本来なら、雑踏のど真ん中とまではいかずとももう少し近くまで行けるはずだったのに──。
「大体、この辺りに居るとは信じられないのだ……。確か既に宮殿に……」
表通りがすぐそばまで迫った時、バタバタと駆けてくる足音に彼はぼやくのをやめて、反射的に視線をやった。
砂煙、遠い怒号。視界に滑り込むように、人影がひとつ。
「……っ!?」
認識するよりも早く、音をたてながら勢いよく胸にぶつかったのは、一人の少女だ。彼女が強かにぶつけた顔面を痛そうに手で触れたのも、ほんの一瞬のこと。
「ひ……ひえぇ……っ!!」
ぶつかったのが人間だと気づくなり何かに怯えたような瞳を向けて、その場に力尽きた……というか、絶望した表情でへたり込んでしまった。
「き、君……!」
「おい、いたぞ!」
気遣う声をかける間もなく、何者かが少女と同じ路地から飛び出してきた。随分人相の悪い男達だ、どう間違っても友人ではないだろう。
男達の身なりで、僧侶にはそれが何者か察しがついてしまっていた。
「人買い……? 栄陽にもあんな連中がいるのか……」
咄嗟に少女を庇うように前に出ると、首から下げた数珠に右手をかける。
「なんだ、お前。坊主か?」
「こんな女の子を集団で追いかけ回すなんて、随分趣味の悪い鬼ごっこをしているのだ?」
「ちっ、優男は退いてろっての!痛い目見てえのかよ!」
「そのガキ、俺に噛みつきやがったんだ!絶対高く売り飛ばしてやる!じゃねえと気が済まねー!」
「話しても分からないなら、仕方がないのだ……」
手が印を結んだ瞬間、大きな衝撃音が轟く。庇われたままの少女は、吹き荒れる砂嵐に瞼を閉じて耐えていた。
僧侶は、その場から一歩も動いていない。それなのに男達は地面に平べったく突っ伏して、すっかりのびてしまっているようだ。
「えっ?手も触れずに……?」
ふう、と肩を下ろした僧侶は振り向き、人懐っこい糸目の笑顔で少女を見た。
「平気なのだ?」
「あ……っ、はい!」
その瞬間、僧侶が僅かに眉をひそめる。今更ながら、気が付いてしまったからだ。
この少女から発せられた、僅かな気である。まだ弱いが、確かに身体の底から湧き出すような。ここで二人が出会ったのは、決して偶然ではなかったのだ。