*第十三章 神座宝は誰の手に
「……ほう、"巫女"が頭を下げているなら仕方がない」
「へっ。まあそこまで頼むなら、通してやってもいいぜ?」
まだ信じていないような……いや、信じていない言い回しで、二人は嘲笑にも似た笑みを浮かべている。それでも下手に出て、すがってみる価値はあると雪は思った。情けないかもしれないけれど。
「ほ、本当ですか!?」
「おい、一体どういう風の吹き回しや!」
雪の傍らに駆けつけ、跪いた翼宿は二人を睨み付ける。鬼宿も少しずつ後退して、二人を庇うように立った。
「勘違いするな、貴様らを信じたわけではない。先に、神座宝を渡せる価値があるかどうか試させてもらおうか。……巫女以外は下がれ」
「んな事が出来るわけないだろ!」
「鬼宿、翼宿! いいから!」
「せやけど、何されるか分からんで……!」
「大丈夫だから!」
歯軋りひとつして、渋々だが鬼宿と翼宿は井宿の後ろまで下がっていく。相手に背を向けることは一切しなかった。
立ち上がって真っ直ぐ二人を見据えた雪は、強気な眼差しとは裏腹に「これから何が起きるのか」なんてぐるぐると考えていた。
何でもすると言った以上、最悪殺されるような事態も無いとは……ああ、なんでもする、は言い過ぎたかもしれない。
「よし。じゃ、着ているものを脱いでもらおう」
「だ……!?」
「は……?」
着てる、ものを。と小声で反復して、何故か自身の体を見下ろす。
「変態!変態の幽霊なのだ!」
「お前ら、それはあかん!いくらこんな所で長いこと地縛霊やっとるからって……!やっぱし女に飢えとるんか?そうなんやな?可哀想に、それは成仏できへんわ……!」
「う、うるさいな!勘違いするな!別にこっちは、やめてもいーんだぞっ!?地縛霊とか言うな!」
黙ったままで、意を決した雪がまず上着を高く投げ捨てる。そこからはなかなか手が動かなかったが、寒さでかじかんでいるわけではないようだ。
「はいはい!脱げばいいんでしょ、脱げば!」
「わーっ、やめるのだーっ!全員あっち向けーっ!さもないと、洞窟ごと吹き飛ばすのだー!」
「待て!取り乱すなっ、井宿!」
半ば自棄っぱちになりながら制服を放り投げて、下着一枚で鼻息荒く仁王立ちする。色気のかけらもないし、背後の騒ぎは半分も聞こえていない。
「ここまでにしないと、色々問題あるんで……!」
全部と言われたけれど、彼女にだって限界はある。そもそも馬鹿みたいに寒いし、仲間とはいえ後ろに控えるのは男ばかりだ。
「あり? ぜ、全部やないんか……」
「残念そうにするな!翼宿が代わりにやればよかったのだぁーっ!」
「俺は男の裸など見たくはない!!」
「ほら見ろ!やっぱりただの変態やったで!井宿、今すぐ成仏させたれ!」
「違うって言ってるだろうが!」
虚宿は顔を真っ赤にして怒り狂っている。血がのぼりやすいのか知らないが、外野ばかり騒ぐままでは話が先に進まない。精神的にも肉体的にも、この格好では雪もそう長くは持たない。
「あのっ、私はどうすれば。着ていいですか」
思わず本音をこぼしてしまったが、目の前の二人は特にそれを咎めることもなかった。
「…………。そのまま、じっとしていろ」
ばつの悪い顔をした虚宿が、思い出したように手をかざす。
その刹那、寒さに軽く目を伏せていた雪の表情が一変した。