君を探して

一人で人混みを歩き回るのは、どうにも好きになれない。

彼女と一緒ならば、多少の息苦しさは気にならないのに。

――視線をあちこちへ忙しく巡らせながら、井宿はそう思っていた。

夏祭りの会場で雪とはぐれてしまってから、そろそろ十分以上が経つ。スマホ等は彼女の巾着の中、だだっ広い会場、どんどん増える浮かれた祭り客。もうお手上げ状態だ。

スマホという文明の利器がなかった時代、こんな状況にどう対処しただろうか。どっぷりと現代の"当たり前"に漬かってしまった井宿には、もう分からなかった。

「ふうっ……」

「子供扱いしないでよ」と少々むくれられる可能性があったとしても、万が一の待ち合わせ場所くらいは決めておけばよかった。ゆっくり歩く肩に時折誰かがぶつかる度、やはりはぐれることも想定しておくべきだったのだと痛感していた。

一瞬、ほんの一瞬の油断が命取りになる。そんなことは、重々承知していたはずなのに。――すっかりたるんでしまったものだ。

「それはちょっと考えすぎか」

祭りの人出は、もう間もなく最大値を迎える。外だというのに、どうしてこうも空気が淀んでいるのか……むっとする熱と空気にむせかえりそうになりながら、井宿は少し歩幅を広げた。






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