で | ナノ





俺は朝目を覚まして、直ぐに溜息を吐かずにはいられなかった。それもそのはずだ。今日という日は、忍たま四年生で女装の授業がある。
諦めから、徐々に苛立ちに変わる。忍者だからってそうそう女装なんかするかよ・・!
男は女にはなれねえってんだ。因みに女も然り。

そもそも俺が女装をすることを嫌うのは、似合わねえからじゃねえ。その逆だ、逆。
自分で言うとえれえ気持ち悪ぃが、俺は女装の成績だけ秀だ。
勿論三木ヱ門も平も綾部も女装の成績に関して言えば、悪くねえ。だが、恐らく俺が一番、うめえんだよ。悲しいことにな。
母上に寄れば、俺は女顔らしい。どうせ俺には顔しかねえよ悪かったな。

「おい名前、さっさと準備しな いと授業に遅れるぞ」 「おー」

俺は行きたくねえ。行きたくね え・・! なんだって女顔の男が女装するん だってんだ。それじゃまるまる女 じゃねえか。俺は学年でも群を抜い て高身長だけどな、これくらいじゃ いるんだよ。背の高い女ってのが な! それだけじゃあねえ、それだけじゃ ねえんだよ残念なことにな。俺は平 みてえにがっしりした体型じゃねえ んだよボケ。これも逆だ、逆。

「おい何回も言わせるなって言って るだろ!早くしろこのバカ#名前 #!」 「おめえ!本当のことを本人に言う んじゃねえよバカヱ門!」 「何だと!」

きっちりばっちりがっちり女装した 三木ヱ門の襟を掴みあげて相手の足 を床から浮かしてやった。相も変わ らず整った顔しやがる。男前で優秀 だよてめえは。ぜってえ言わねえけ どな。 ぐっと顔を歪めた女顔仲間は、掴み あげている俺の腕を掴んではいる が、効かねえ。 俺は細身で女顔でついでに癖毛だ が、幸い力と身長だけはあんだ。大 して成績も良くねえけどな。 三木ヱ門だって火器を来る日も来る 日も引き摺ってるが、んなもんじゃ いけねえ。年がら年中喧嘩してる俺 に喧嘩で勝つんなら、上級生倒して 来い。鉢屋なら許す。 とか言ってんだけど俺な。別に問題 児でも下賤な身分でもねえからな。 忍びになるって時点で落ちぶれてっ けど、一応は家庭の事情って奴だか らな。 ・・なんか、落ち着いてきた。

脱力したから三木ヱ門を下ろしてや れば、咳き込みながら睨んできやが る。それを無視して、俺は文机にば たりと倒れ込んだ。

「やってらんねえ」 「・・僕だって好きでやるわけじゃ ない。だがこれは授業だろ」 「わあってる」 「・・名前」

乱れた着物を整えているらしい三木 ヱ門の動作によって、布ずれの音が 静かな部屋に良く馴染む。沈黙と共 に与えられる視線に耐えきれなく なって俺は仕方なく支度をすること に・・なんだろ。どうせ。

「もうそろそろか?」 「おう、もうそろそろだ」

ばっさばさと着物を着て、適当に着 つけていく。しかし女は褌しねえっ てんだから恐ろしいもんだ。おちお ち草っぱらで寝ても居らんねえ。 腰巻をして、化粧をしてもう一度手 鏡を覗く。よくもまあ、こんなに女 らしくなるもんだな。化粧したって だけなのによ。髪の長さはタカ丸さ んに何とかして貰えりゃ、なんとか なんだろ。どうやってんのか阿保な 俺には理屈なんて一寸も分かりゃし ねえが、あの人も変人だかんな。常 人の俺には解らねえ。 捕捉すると、常人と自分の事を言っ ているが、あくまでこの学年で・・ いやこの学園で、だ。ここは変人の 集まりだかんな。まず学園長からし て変人だ。凡人じゃねえ。

「タカ丸さんは隣りに居たぞ」

「・・お前って時々、すげえよな」

俺が今何考えてるのか勝手に読みや がる。まあ、嫌ってわけじゃあねえ んだが、流石ろ組にいるい組って感 じで腹が立つ。優秀ならい組に行 けってのに、一年時からずっとろ組 に燻ってんだよな。先生もこの優秀 なんだか変人なんだか知らんが、火 器オタクをとっとと上にあげてや りゃあいいってもんなのにな。 隣りで火器オタクの相棒は、時々凄 いって言われたのが気に喰わねえら しく、喚き倒している。こいつ、性 格は全くアイドルらしくねえんだよ な、残念なことに。

さて、今からタカ丸さんを訪ねるか と重い腰を上げたのとほど同時に、 襖が勢いよく開いた。因みに俺はこ の時、既に諦めの境地に達してる。 それも、限りなく無心に近い諦めっ てやつだ。女装とは、諦めと無心で 行うんだよ。今いいこと言ったな。

俺がこうして、女装についての何た るかを説明している間、俺と三木ヱ 門の部屋では大乱闘が勃発してい た。そして一方ではいつの間にか、 タカ丸さんは俺の後ろに回り込ん で、髪結い師として働いている。

「はははは!田村三木ヱ門、貴様も 矢張りこの成績優秀、眉目秀麗な私 には敵わなかったようだな!」 「なにい!平滝夜叉丸!お前の方こ そ何だその格好は!」

とまあ、如何にも掴みかかって行き そうな三木ヱ門と、未だに状況を理 解してんのかしてねえのか分からね えで自慢話を繰り広げる平を余所 に、俺とタカ丸さんは世の中の流行 について熱弁していた。 その隣りには猫みてえにいつの間に か俺達の隣りにやって来ていた綾部 が、穴が掘りたいと言わんがばかり 土を眺めている。全く持ってちぐは ぐだな、四学年てのは。

「名前!」

漸く女装の準備を済ませて、授業の 内容に腹を立てねえために無心に なっていると大声て名前を呼ばれ た。如何にも面倒臭そうな臭いがプ ンプンするってのに、態々振り向く 奴はいねえっての。俺は無視をし た。

「名前!お前、無視するな!」

うるせ 小声で溢した言葉は隣りにいる二人 には聞こえてるらしい。タカ丸さん は苦笑いをしながら、行ってあげた らどうと勧めてきやがる。無理もね え・・タカ丸さんは御人好しだから な。 あんな馬鹿二人に付き合ってやるや つぁ、よっぽどの暇人だってのに よ。それにしてもうるせえ。苛々し てきた。

「バカ名前!」 「うるせえ!てめえより成績悪い奴 に本当の事言うなって何度言わせや がる!」

振り返った瞬間俺は、しまったと 思った。 馬鹿二人に態々返事しちまった!こ いつら二人が集まる時は苛々したも ん負けってのにくそっ!

「名前、こっちに来てくれ!」 「・・・わあったよ」

行きゃあ良いんだろうがよ、行きゃ あ。 俺は機嫌が悪い時にするように、だ んだんと足を踏み鳴らして二人に近 づくと見下ろした。 平はあれだな、女装してるときより 何時もの方が良い。

「・・・」

珍しいこともあるもんだな。さっき まで止まらなかった口がぴくりとも 動かねえ。 俺は物珍しい物を見る目で平を見つ めていると、隣りで誇らしげに腕を 組んで反返っている三木ヱ門は吹き 出して笑った。

「手も足も出ないだろうな」 「なにがだ」 「・・・」

なんなんだ。 威張り腐る三木ヱ門と黙り込む平、 滑稽にも状況が掴めていない俺。一 向に状況を判断することが出来ねえ 俺は眉間に皺を作って、戻るからな と言葉を吐いた。

「・・この平滝夜叉丸、一生の不 覚」

一拍間を置いて俺は、この平の言う 言葉の意味を理解した。平が急に 黙ったのも、三木ヱ門が哂ったの も、つまりそう言う事だ。 視界に入るタカ丸さんはやけに嬉し そうに、僕が仕立てたんだよと笑っ た。

ぷつり、 蟀谷が浮き出た気がせんでもない。

「てめえら纏めて表出やがれ!」

俺は女じゃねえ!

20120413//女じゃねえ!

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