忠 『忠』 @まごころ。まことAま心(誠)を尽くす。B臣下が君主に仕える道。忠義「誠忠」Cまめ。まめやか。忠実。D正しいE思いやり。 『大修館新漢和辞典〔携帯版〕』より抜粋 残念だな 感情の読めない隻眼が私をぼんやりと見下ろして言った。首にはクナイが突き付けられていて、少しでも動けばお陀仏だろう。身体は鉛みたいに重い。もう動けそうになかった。ここまでかな。自嘲する。 「全然残念そうに見えませんが。組頭」 「私はお前の組頭じゃないよ。槻山城の忍さん」 「いやだ。いつから気付いていたの」 「つい最近かな」 「あら、意外。もっと早くに気付いていらっしゃるかと思っていましたのに」 わざとおどけて言うとぐとクナイを押しつけられる。足音がいくつか聞こえてきた。雑渡の部下か、こちらの配下か。ぐっと拳を握り締める。一か八かのかけに出よう。掛けてくるのがタソガレ忍軍だったら私の負け。でもウチの配下だったら私の勝ちだ。大丈夫。お頭は私を裏切らないもの。大丈夫。 大丈夫と繰り返し自分に言い聞かせて、疲労した身体を鞭打って雑渡の下から抜け出した。すぐに距離を取って忍刀を構えた。頭がぐらぐらして視界が霞む。それでも足に力を入れて、真っすぐに立つ。 雑渡は目を細めて笑った。 「驚いた、よくまだ動けたね」 「…うるさいな」 大丈夫。大丈夫。賭けに勝つのは私だわ。大丈夫。 地を蹴って、雑渡との距離を一気につめる。急所目がけて忍刀を振り下ろす。避けられたと自覚した瞬間蹴り飛ばされた。咄嗟に受け身を取れず地面に転がる。クナイが振りかざされた。反射で避けて立ち上がる。距離を取ろうと後方に跳んだはずが雑渡がすぐ距離を詰めて拳を振るう。私はひたすらに防戦一方だった。一撃一撃が重くて、気を抜けばすぐにでもまともに食らってしまいそうだった。 足音がもうすぐそこまでやっ来て、林から飛び出したのは、黒い忍装束に丸い目の彼と雑渡の部下たちだった。 賭けは私の負けね。 裏切られたと思った。でもきっとあの人なら保身のためには私ぐらい切り捨てる。かなしいはずなのにそれにすら納得してしまって、私は失笑した。 そっちに気を向けた瞬間思い切り蹴り飛ばされて木に背を叩きつけられる。雑渡の手が私の首を占める。寸鉄で反撃しようと握り締めた瞬間、寸鉄を持つ手をきつく握られ落としてしまい、きつく雑渡を睨んだ。 私を睨みながら、尊奈門が雑渡に近づいて耳打ちする。雑渡が頷いてにやりと笑った。 「…君のね、上司が掌を返したよ。こちらの軍門に降るって。かわいそうにね。君、彼を慕っていたんだろう」 尊奈門が目を見開いてそれから悔しそうに唇を噛み締めた。 「ええ。裏切られちゃった。折角の苦労も水の泡だわ」、 「っ書面ではお前の処分は如何様にでもお好きなようにって書いてあったぞ!」 「だからなぁに?私あの人が好きなの。彼の為だったらなんだってできるわ!汚いことだって率先してやったわ!あんたみたいな小僧落とすくらい朝飯まっ」 ぐっと喉を絞められ言葉に詰まる。 「一つ聞く」 手が話されてその場に膝をついて、喉を押さえながら咳をした。 雑渡は私を冷たく見下ろして言った。 「私に尽くしたのも尊奈門に囁いた愛も全て嘘かい?」 「えぇ、もちろん」 ここ一番と艶然と微笑んでみせた。そんなこと、あるわけないじゃない。 そして私は雑渡に殺された。 |