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たまにね、ぽかーんて、なんか心の何処かに穴が空いてしまうの。疑問っていうか、虚しさって言うか、言葉にならない何かがいきなり抉ったみたいな。
まあ、言葉にならないっていうか、当てはまる言葉を知らないだけかもしれないけど。

「ん?私、前にも同じ話をした?」

縁側に座って、今まで遠い空ばかりを見ていた名前がいきなりこちらに振り返った。さあ、どうだったかな。曖昧に返して様子を伺う。

「…実際にする忍務ってさ、キツイよね」

名前は、また遠い空を見上げて、今度は目一杯に両手を伸ばしてみせた。
ああ、そうだ。この間の忍務から帰って来たときもああ言っていた。とすん、と床に両手を付けて、動かなくなった。少し後ろに座り、後ろ姿を見てるだけの私には名前がいまどんな表情をしているのかは見えないが、明るい表情でないのは確か。
ぴくり、人差し指が動いてそのまま拳を作って、すぐに開いた状態に戻される。多分いま、名前は余計な事を考えてる。

「あんまり深く考え過ぎるな」
「…分かってる、けど」

歯切れの悪い返答に、無意識の内に眉間がシワを作った。


「…仙蔵」
「なんだ?」
「今してることが、意味の無い事だったらどうする?」

名前の隣へ移動して、こちらを見上げるその目を見返した。余計な事を考えるな。私はそれだけ言ってその場に座り込む。


「必ず、意味がある?」
「一つ一つの事に何かしらの意味が無ければ、その理由すらもなくなるだろ。それでは上手く世界が廻っていかない」
「うーん、」
「…お前は何が気に入らないんだ」

名前の眉間にシワが寄る。目線は常に、遠い遠い空だった。
何が、と具体的に表すことが出来ない何かが気に入らないのだろうか。その何かを言葉にすることを躊躇っているのだろうか。

「はぁ、…伊作に聞いてみろ。なんでお前は誰彼構わず怪我の手当てをするのかと」
「え?でもそれは」
「伊作が保健委員で、委員長だからだろう?」
「…うん、」

また歯切れが悪い。そして、同じような質問をまた投げ掛ける。

「じゃあ、なぜ文次郎の奴は常にギンギンに鍛練をしている」
「それは…強くなりたいから…?」
「アイツの場合は暑苦しいからだ」
「……意味がわからない、」
「立派な理由だ」
「そうなの?仙蔵がそう思ってるだけでしょう」
「小平太の奴なら、細かいことは気にするなと言うだろう」
「あ、言われそう」

困ったように曖昧に笑って、ようやくまた私を見た。その顔の右頬に手を沿えて動かないよう固定する。驚いたのか少し目を見開きはしたが、また曖昧に笑って、どうしたのと私に問う。

「どうしたと思う」
「ずるい、聞き返すの?」
「どんなに小さなことだって意味がある」

今日お前が私の所に話をしに訪れたことにも、何をしていても必ず手を止めてお前の話を聞く私にも、お前が言う心の中に空いてしまった穴にも。
じんわりと名前の頬から伝わる熱を感じなから、私は名前の唇と自分のそれとを重ね合わせた。

「コレにだって、深い意味がある」


空っぽの意味などありはしない。



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