絆 「落ちぶれたな、神崎左門。」 黒い装束を纏った名前が冷たい目で僕を見下す。 じくじくと痛む右肩から血が溢れてきた。 「情に絆されるなんてな。忍として失格だ。」 「それでも僕は友達を殺せない!!」 「どうぞ御自由に。殺さなければ死ぬだけだが。」 僕を馬鹿と言ってからかった口は、三日月のように歪んで。 僕の手を引いたその手は、黒く光る鉄を二議握って。 揃いの制服は知らない城の忍装束になり、鮮血を吸って変色していった。 それは僕の胸に突き刺さった苦無によく映える。 「…名前、信じてたのに。」 「諦めろ。」 「あの生活はなんだったんだよ。」 「全ては過去。そんなものに縛られていては忍になれない。」 神崎、もう迷子縄はついていないだろ。 お前は自分で自分を縛っているんだ。実に無様に。 名前が耳元でそう言った時にはもう何も聞きたいと思えなかった。 信じてた、信じてたんだ。 見えないけれど僕達の間には何かが繋がってるって。 それが絆だって。 薄れゆく意識の中、名前が呟いた。 それは紛れもなく学園生活を共にした友人の姿で、声で、聞き慣れた台詞と遣り取りで。 「馬鹿な左門。」 「…ぼく……ばか、じゃな…」 「左門が馬鹿じゃないなら、この世界は天才で溢れかえっているよ。」 微かに名前の声が震えている。 泣いているのかと問えば視界が遮られ、花の香りでむせ返る。 「…名前、」 動けない。 「名前、」 見えない。 「名前ッ…!!」 何もない。 僕が望んだ未来も、名前も、絆もない。 ああ、そうだった。 僕達に絆なんてできっこないんだ。 だって忍者だから。 それでも僕は君を愛したかった。 「さよなら。」 僕の最期の言葉は虚しく闇に溶け込んだ。 手向けに百日草の花を。 ((ありがとう。ごめんね。大好き。)) |