息 好きと嫌いと愛と憎しみ。 共存するものなんかじゃなくて、好きな人は好きで、嫌いな人は嫌い。好きのさらに上が愛で、嫌いの上が憎しみ。 そう思っていられる程、この世の中純粋には生きていけないもんだなぁと悟った四年の春。 その日は朗らかな日和で外はぽかぽか暖かく、届けられた文を見て俺が浮かべた乾いた笑みは、きっと不釣り合いにも程があった。 感情に任せて後先考えず行動するには、俺は忍術学園に染まりすぎてて。 だからって仕方ないことだと割り切れる程、大人にはなれなかった。 「名前」 「おう、綾部ちゃん。どした?」 「なんでもないの。ただ、お話しよう」 「いいだろう」 俺と綾部ちゃんは犬猿の仲であるい組とは組ながら、アイツ等の会話には誰も付いていけないとよく噂される程仲良しだ。 ついでに綾部ちゃんが外見美少女で俺が外見男前なせいか、アイツ等実はデキてるんじゃねぃの?的な噂もある。 そんなこんなで、ただ今い組の綾部ちゃんの部屋である。 「はい!」 「はい、綾部ちゃん何ですかぁ?質問ですかぁ?」 手を挙げられたのでとりあえず当てる。綾部ちゃんが質問とは珍しい。綾部ちゃん人への興味うっすいからなぁ。 「名前は滝が好き?」 「うん」 「…嫌い?」 「うん」 「どっちかと言えば?」 「愛しさ余って憎さ百倍。意味違うけど」 綾部ちゃんは何だかんだ友人想いのかわいい子だからなぁ、と俺は薄い笑みを浮かべた。 あの何事にも動じないことに定評のある綾部ちゃんが目を見開き、俺から離れるように後ずさった。綾部ちゃん、それ俺傷つくぞ。 「…ごめん」 「いや、最初から気づいてたし。綾部ちゃんのそういうとこ、俺好きよ?…まぁ滝夜叉丸や、そんな所にいないで話そうぞ。そのために計画立てたんだろう?」 襖を挟んで向こう側、気配を断っている滝夜叉丸に話し掛けた。 最初に、綾部ちゃんがなんでもないなんて言うから、わかったさ。綾部ちゃんはなんでもある時にしかそう言わないだろう。 そろそろと襖を開け、いつもの自信に満ちた顔が嘘のように眉を下げた滝夜叉丸が部屋に入ってきた。自分の部屋なんだから、もっと堂々としてもよかろうに。 まぁあれから、えーと…八、九ヶ月経つもんなぁ。季節はすっかり冬である。そろそろ避けるも限界だ。 「率直に言う。俺は滝夜叉丸に死んでほしいと思う」 「名前」 「綾部ちゃん、悪いがこれはどうしようもないのだ。俺は滝夜叉丸を愛しながら、同時に酷く憎らしい。よって滝夜叉丸の呼吸を否定する」 さすがに、と咎めるように見てきた綾部ちゃんに、俺は無表情で淡々と科白を吐いた。 仕方ないのだ、俺にもこの感情、どうしようもなかった。 「っ…名前」 「ああ、何だ滝夜叉丸」 「理由は?理由を教えて」 この、まるで解決策の見つからない絶望を、君は知りたいと言うのかね。仕方ないね、人は理由を聞きたがる生き物だから。 「教えないよ、滝夜叉丸。これでも俺は、君を憎みながらまだ君を愛している」 なんでもない、はなしです。 ただ俺の育ての親はそこそこに悪いことしていた人達で、だけど俺には優しい人達でした。 忍術学園に入学前、彼等から俺は愛を教えてもらいました。 俺には彼等だけでした。 忍術学園に来て、好きな人ができました。 平滝夜叉丸という人です。 一年で男相手にって悩んで、二年で悩みながら友人になって、三年で開き直ってぺらぺら自慢話する滝夜叉丸に対抗するように馬鹿みたいに好きだと繰り返して、ああ真っ赤になったアイツは酷くかわいかった。そして、四年で―― 暗殺命令が、下りました。 力は無かったのです。悪いことはしていたけれど、それはずる賢い方法で、そう、優秀な奴とはいえ忍たまの四年生に実習がてら簡単に暗殺されてしまうような、あ、あぁあ、あ。あ。 文を受け取って、理解して、理解したくなくて、わらって、実感湧かなくて、走って、もう息をしない大切な人達を見つけて、、 ねぇ、君も息をするのやめてよ。 そしたらまた、愛せる。ただ純粋に、愛せるんだ。 たったそれだけの、救いの見えないおはなしでした。 |