歪 「名前ってさあ、どうして乱太郎と同じくらい目が悪いくせに眼鏡掛けないの?」 「ひっ…、え、あ」 ろ組の僕は大好きな日陰ぼっこをしながら、教室の掃除をしている伏木蔵と平太、斜堂先生から頼まれ事をしていた怪士丸と孫次郎を待っている。本当は一緒に手伝おうと思っていたけどすぐに終わるから先に行ってていいよと言われたので、一足先にいつもみんなで日陰ぼっこをするところへ向かった。 体育座りをしながら、待っていたらいきなり人が潜り込んできた。伏木蔵たちじゃなくて、びっくりして……ちびるかと思った。 「別に取って食うわけじゃないんだからそんな声出さないでよ。というか、ぼくの顔ちゃんと見えてる?」 「ご、ごめんなさい……」 不機嫌な声にビクリと肩を揺らす。お、怒らせちゃったかな。正直ぼやけて誰かもよくわからないし……。 そんな僕の様子を見て、僕と同じ水色の忍装束を着た彼はわざとらしくため息を吐く。 「ご、ごめ…」 「一年は組の笹山兵太夫!」 突然の自己紹介。彼は笹山兵太夫くん。話したことはなかったけど、一年は組のうわさはよく耳にするから名前だけ、知ってた。あれ、兵太夫くんはなんでぼくの名前と目が悪いこと、知ってるんだろう? 「それで?眼鏡ないの?」 「えっ、あ…あるけど…」 「じゃあ掛けなよ。目が見えなくていいことなんてないでしょ」 「そうなんだけど……」 極力、人前で眼鏡は掛けたくはない。それが一年ろ組以外の人たちならなおさら。別に嫌いな訳じゃなくて、僕がただ臆病なだけで。 「もうっはっきりいいなよ!」 「ひっ!ご、ごめんなさい!……あ、その…歪んで見えて」 「度が合ってないんじゃない?」 「そっ、そうじゃなくて……ぼく、臆病だから怖くて…眼鏡を掛けると、いろんなものが見えて…。余計に、歪んで見えるような……気がして」 「……」 気圧されてつい喋ってしまった。サーッと血の気のない顔さらに青くなる。どうしよう、変なやつって思われたかもしれない。きっと言葉も可笑しかったに違いない。 「……」 「………ごめっ」 「眼鏡」 「え…?」 「だから!眼鏡貸して」 「うあ、あっ…はい」 ビクビクしながら兵太夫くんの言葉を待っていたら、眼鏡という言葉が返ってきた。もっと悲しいことを言われるのかと思った。急いで懐にしまっておいた眼鏡を取り出す。手渡した途端、兵太夫くんは勢いよく僕の耳に掛けた。正直、上手く耳に掛かっていなくて痛かったけど。でも痛みを訴える間もないまま今度はガッと顔を掴まれた。 「名前の目の前に居るのは!?」 「ひ…さ、笹山兵太夫くん、です」 眼鏡を掛ける前よりもはっきりと見える視界いっぱいには、前髪をきれいに揃えた兵太夫くんしか見えなかった。あれ、全然 歪んでなんかいなかった |