私 「まっだまだーーっ!!そんなことでへこたれてちゃ、忍者として生きてけへんぞ!」 「っ、はい!」 怒っているかと思われるほどに厳しい声色で叫ぶ、それに応えるようにして腕を先ほどより素早く動かすアイツを見ていると月日は怖いなと私は思った。 私がアイツ…というより一年は組を初めて見かけたのは入学から少したった時だった。まだ幼く忍者というものがよく分かっていない者が半数いたあの頃、とはいってもまだ一年も経っていないのだからそれほど長くはないのだが。負けず嫌いにからくり好きにナメクジ好き、師匠を尊敬するアイツ等に兄貴肌に冷静沈着、銭好きに食べ物好き、掃除好きにお人好し不運小僧。これほどキャラが濃いければそりゃ毎日が楽しいけれどもそれほど大変だった。まあ私が世話したわけじゃなくて、大変だと言っていたのはそれぞれの委員会の先輩だが。 「こうですかっ 名前さん?……はっ!」 「自分に厳しくやり、お前やったらもっと出来るやろ?」 「はい!!」 隣で剣を先ほどよりも早く動かそうと必死に腕を振る金吾。ちなみに私の言葉が文面で見れば幾分恐ろしく怖い言葉にとれるだろうが、実際のところ声色は先ほどよりも優しく笑いを含んでいたりする。そんな私のもとにもう一人違う学年の生徒がやってきた。 「…何やってるんですか、名前さん、金吾?」 「え、金吾の汗を眺めてる!」 「っ違います!名前さんは僕を叱ってくださっていて、そんな変な関係じゃ…!」 「ちょ、そんな意味で言ったわけじゃないんやけど!?ネタだってネタ!」 「変な関係じゃないですから…滝夜叉丸先輩!!」 「話を聞けよ、コイツ!」 ツッコミに専念していると思われた彼がまさかの裏切り行為を働いた。ネタで言ったんだよ、だって私関西人だし!ギャグしたかったんだもん!とは言ってももはやアタフタとしている状態の金吾には届いていないらしく、それを見ていた滝夜叉丸の方が困っていた。 「落ち着け、金吾!」 「いやあの…勘違いですから!」 「いいから落ち着け金吾、ほら息を吸って…吐いて」 金吾の背中をさすりながらそう促す滝夜叉丸に私は感動していた。あらま滝ちゃん、カッコいいじゃないか!惚れるぞ。と甚だ本人からすれば迷惑が勝ったようなことを一人悶々と考えているとやっと金吾を落ち着かせることに成功したらしい滝夜叉丸に声をかけられた。 「あっ名前さん!」貴方に用事があったんです、そう顔をいきなり近付けられ凄い形相で言われた。その声の凄みと言うと、まるで叱られているのではないかと勘違いするほど。はて、そんなに怒られることしたっけな…思い当たる節がないとは言い切れないが、今日はまだ何もしていないはずだ。多分。 「何がしてないはずだ、ですか!」 「え、やっぱ私何かしたの!?」 「しましたよ!潮江先輩のご飯に勝手に白和え盛りつけたり、善法寺先輩を指さしていきなり“この二次元のネタ箱おおおお!!”と叫んだり、三年ろ組の富松作兵衛が壁を修理しているところに向かって七松先輩と一緒にバレーボールぶつけて遊ばれたり……これは七松先輩にも非がありますが。」 他にも色々とみんなから苦情がきています!人差し指を立ててきっぱりと言った。 「だから少しは自重してください!」 「えーこんなのいつものことやん!なあ金吾!」 「…駄目だと思います。」 「解せぬ。」 しかめっ面で恐ろしいほど真面目に言う金吾が少し怖かったのでそれ以上は私は何も言わなかった。年下に負けたぞ、私。いやまあ年なんて関係ないか、よく長次に怖さを感じるし私。 にしてもな…私はそんなに悪いことをしていたっけな。 「自覚がおありでないのですか!?」 よくもまあそんなことを、いけしゃーしゃーと仰られる。そういう風な表情で呆れたように滝夜叉丸がため息をついた。なんだそのため息は、なんか年季を感じるぞ。そう言えばきっと叱られるのは目に見えているから何も言いはしないけど。それでもまあ私は自分のしたことがそれほど悪いことじゃないと思う、これはいけないことなのだろうか? 私は頭をかしげた。 「……今から少し、時間を頂けますか?」 頭をかしげた瞬間、私は滝夜叉丸に呼び出された。呼び出されたその先には潮江文次郎の部屋があった。なんでここ…普通なら滝夜叉丸の部屋だと思うんだけどな。 眉を寄せて考えているうちに目の前にあった戸が横に開かれ、滝夜叉丸が「失礼します。名前さんを連れてきました」と言っていたのが聞こえた。その言葉に対する応の返事が聞こえ私も中に入ることとなる。 この部屋に入るの久しぶりって感じせんな…昨日も入ったしな、勿論本人がいる時だよ! 「やっと来たか…なんで呼び出されたかは分かってるよな、名前?」 「ん?ああ、なんで私が後輩と仲がいいのかについて話し合うんやろ!」 「「「「ちげぇーよ。」」」」 「…すいません、ボケました」 一気につっこまれて何か攻め立てられているような気がして謝る。何より文ちゃんと留三郎と兵助と三郎の視線の痛さが尋常じゃない、恐ろしいにもほどがある。どうやらおちゃらけている暇はなさそうである。 文ちゃんの部屋だから居るとしても六年生だけだろうとたかをくくっていたが、実際には上級生が全員居た。おかげで部屋は限界まで人が入っているのだけど…何か私のせいで悪いような気がする。 「…名前ちゃん、言いたいこと分かるよね?」 いつもより少し口調の厳しい伊作が言う。 「…まあ薄々は。」 「迷惑、とまでは言わないけど…少し抑えてもらえるとうれしいな。僕ほら不運だから、これ以上きっかけが増えると大変だっていうか……」 「…ごめん」 今度は恐ろしいほど素直に謝った。こうなると本当に分かっているのか?と不安にはなるけれど、それでも私はみんなの言いたいことが分からないでもない。そりゃみんなが楽しいと思えるようにと思って常日頃悪戯染みたことを私は繰り返しているし、そのことについて一年は組や二年い組は喜んでくれているからそれほど悪いとは思わない。けれど彼らは上級生、遊ぶよりほかにしなければいけないことは山のようにあるし、いちいち私の遊びに付き合っている時間はないのだろう。…人生、楽しいことが大切やと思うんやけどな。 みんなのため、と思ってふざけたことをしたつもりが空回ってしまっていたらしい。…なんて要領の悪い。 (こんなんやから親にも、要領が悪いって怒られるんやなー。) 小さいころから気が付いていた自分の弱点に再度足を引っ張られてしまいため息をつきそうになる。まあお腹に力を入れて絶対にため息をついたりしないようにするけど。 そんな私の横に座っていたタカ丸がふと私の髪を触った。 「名前さん髪に砂付いてるよ〜」 「あ、タカ丸ありがとう!いや今まで金吾と遊んでたからな〜」 「へえ。でも女の子なんだから髪に気をかけててね」 「馬鹿を言わないでくださいタカ丸さん、この人は女らしくしたことがありますか?ないでしょうに。」 鼻で笑いながら三郎が言った。腕を組んでいるその堂々とした態度に少し腹が立つ。 |