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「あんたなんか大嫌いだ!」
何度も何度も、数え切れないくらい紡いだ言葉なのに、何故か胸がもやもやとする。
目の前でにこにこと笑う先輩がどうも腹正しくて会うたびに紡いだ言葉なのに、意味が判らない。
嫌いだと言えば言う程胸がずっしりと重くなる。何だか不愉快で気持ち悪い。
「…わたしは、好きだよ。」
くしゃりと笑って好きだと言う先輩が嫌いで嫌い仕方ない。
一年が嫌い。人参が嫌い。態と怪我をする奴が嫌い。先輩が嫌い。
嫌い、嫌い。嫌いだと言う度にくしゃりと笑って好きだと言う先輩を見るのも嫌い。
ぼくを好きだと言うくせに四郎衛兵に好きだと言う先輩が嫌いだ。
ぼくの髪を綺麗だと言うくせに立花先輩の髪を綺麗だと言う先輩が嫌いだ。
ぼくの手当ての仕方を褒めるくせに乱太郎の手当てを褒める先輩が嫌いだ。
ぼくが生意気な態度をとっても優しく笑う先輩が、先輩が、








「…左近、泣いてるの?」
「っ、泣いてません。」

暖かい筈の手は冷たくて、先輩の白い手は青白くて、息も小さい。
保健委員のぼくが先輩に怪我を負わせたのに、先輩は気にするなと笑う。嗚呼気に食わない。
見ているだけでも痛々しい怪我なのに笑う先輩が、強がる先輩が嫌いだ。痛いなら痛いと言えばいいのに、強がらなくったっていいのに強がる先輩が嫌いだ。
泣くなと頬を撫でてくるその手が嫌いだ。
安心させるように笑う顔が嫌いだ。

「左近、君が一等好きだよ。」
「煩いです!喋らないでください!」

じわじわと浮かぶ赤い染みが嫌いだ。
地面に出来た黒い染みが嫌いだ。
冷たくなっていく手が嫌いだ。
色を無くす瞳が嫌いだ。

「…っ、先輩!」

堪らず発した声に反応しない先輩が、先輩が、



「…、泣かない、で。」





だい、すきだ。








だいすきでした、あいしてました

何時も笑ってくれる先輩が、褒めてくれる先輩が、愛してくれる先輩が、誰よりも一等大好きでした。愛してました。天の邪鬼な性格が貴方を傷付けてしましました。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。誰よりも愛してくれた先輩は、誰よりも好いていた先輩は、愛していた先輩は、息をしていません。山賊に襲われずに嫉妬していたのです。小さな小さな嫉妬をしていたのです。小さな嫉妬は次第に大きくなりました。認めたくなかったのです。三禁を犯す自分を、後輩や同輩、先輩に嫉妬する醜い自分を。嗚呼、ああ、吁、嗚呼、今更言葉にしても遅いのです。手遅れなのです。意味は無いのです。

「先輩、名前先輩、一等好いております。」

紡がれた言葉は、酸素に還るだけなのです。

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