い | ナノ



しない

俺の幼馴染の中で、名前は特別だった。
どんなふうに特別なのかというと、名前は幼馴染であると同時に俺の好きな子だった。
両親から「女の子には優しくしなさい」って教えられてきたことに、俺の「好きな子には優しくする」っていうモットーが加わったことで、俺は名前に激甘だった。
名前に好かれたい。その一心で、どんなわがままだって叶えられるくらいの男になる。
誰にも言ってないけど、これが俺の「忍術学園に入学した理由」だった。

名前が好きなことなら何だってしてあげたい。
名前のことをひたすら守りたくて、そう思えば思うほど鍛錬にも熱が入った。
俺の忍術で名前が楽しんでくれたらそれだけで顔のにやけが止まらなくて、名前の前ではかっこよくいたいのになかなかそれができなくて大変だったなぁ。
こないだの忍術学園の文化祭に名前を招待したら、目を輝かせて楽しんでくれて、呼んでよかったって心から思った。


思ったのは、文化祭が終わるまでだったわけだけど。


文化祭が終わって帰路につく名前を途中まで送っていたとき。


「ねぇ勘ちゃん!お願いがあるの!」
「ん?なにー?名前。どしたの?」
「あのね、わたしまた勘ちゃんの友達に会いたい!」
「…へ?俺の友達?」
「うん。兵助くんはかっこいいし、はっちゃんはおもしろいし、雷蔵くんは優しかったし、三郎くんは変装がすごくすごく上手でね!」
「え、ちょっと待ってよ名前。」
「またみんなと話したいなーって!」
「あの、名前?」
「すごく楽しかったから!ね、お願い。」



文化祭のときに、確かに俺は名前とみんなを会わせた。
俺の大事な友達だから、名前も気にいってくれたらって。
名前のいうとおり、兵助はかっこいい(ただし、豆腐抜きの場合のみ)し、竹谷はいいヤツだし、雷蔵は誰にだって優しくて、三郎の変装は目を見張るものがある。
俺が考えた通り名前はみんなを気にいってくれた。だけど名前の目を見てたら何か違う気がしてきた。目がキラキラして、少し頬を染めて、ものすごくかわいい。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう。俺はその目を俺に向けてほしかったのに。



「だめ。絶対だめ。」
「え?なんで?勘ちゃん。」
「なんででも。もうあいつらには会わせないからね。」
「どうしたの?勘ちゃん。いつもだったら、いいよーって笑ってくれるのに。」
「俺、もう名前を甘やかすのやめるから。」
「え?どうしちゃったの?何で今日そんなにいじわるなの?」





いじわるもなにも、俺が今まで何のために名前に優しくしてたのか、どうしてわかんないかなー。
ふくれっ面をしてる名前のほっぺたをつっつきながら、俺は誓った。
もう俺、名前に優しくなんてしない。絶対絶対、するもんか。
これからの俺は、名前を俺だけのものにするためにきっとものすごくいじわるになる。

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