見ない 見えない。 違う、見ない。 僕は目の前の光景を見ないように手でふさぐ。 痛い、痛いよ。全てが痛い。 憎い、憎いよ。全て・・・・隣にいる女が憎い。 見ない、見ない、見たくない。 脳が全身へ拒絶を命令する。 私のあの人を奪った、彼女が憎い。 やっぱり僕が男だからいけないですか。 僕みたいな男色は駄目なんですか。 ・・・そうですよね。 先輩は女の人が好きですよね。 でもこらえきれないんです。 先輩が僕以外の人と一緒になるのを見たくないんです。 先輩をどんなに愛してもただの後輩としか見られない自分を見たくないんです。 ねぇ、鉢屋先輩。 僕のこと見てください。 僕が貴方のことを眩しくて見れない分、先輩が僕を見てください。 貴方の事が好きなんです、愛しているんです。 いくら思っても先輩は気付いてくれないんですね。 「今からお出かけですか?」 「あぁ、名前じゃないか。 そうなんだ、家に戻ろうと思ってな」 それって両親に報告ですよね?あの女との婚約を。 「三郎君!」 「あ、来た来た。じゃあな、名前」 嫌い、大嫌い。あの女。幸せそうに笑いやがって。死んでしまえばいいのに。 ・・・そうだ、殺しちゃえばいいんだ。あの女に死を与えてあげよう! そうだな、海に沈めてしまおうか。 「なんで!一体誰が!」 「三郎、落ち着いて!」 「三郎先輩、これ受け取ってください。 実は僕、あの人と家が近かったんです。これ、形見だって」 「っ!」 少し微笑んだ三郎先輩を見ないふり。 殺すときにあの女が持っていた三郎先輩が渡した私物。 こんなの渡したくないけれど いつまでも悔やむ先輩を見たくないから嘘をついて渡す。 家が近いっていうのは本当のこと。五軒先の団子屋の一人娘。 会ったことは一度もないけれど、美人で優しいと人気のある女だった。 僕は一度たりとも思ったことはないけれど。 「三郎先輩、僕と一緒に墓参りいきましょう」 「あぁ、ありがとな。名前」 「いいんですよ。早く元気になってください」 元気になっていつものように悪戯して笑ってください。 貴方の笑顔が好きなんですから。 悲しい顔は見たくないんです。 僕だけに笑顔を見せてください。 醜い思いは見ない、見ない。 |