詮ない 幸せな終わりなんて期待していなかった、と言えば嘘になる。だけどこうなる事は少なからず予想していたから。私ね、綺麗に笑えたと思うの。 「――ごめん、」 ああやっぱり、なんて落胆を抱えながら私は笑う。良いの、伝えたかっただけだから気にしないで。そう言って、ふわりと。 ……うそ、嘘、本当に下らない戯れ言。だってあなたの一番近くにいる異性は間違いなく私の筈なのに、なんで、どうして。そう言って問い詰めたいけど、可愛い女の子でいたい私は汚ならしい感情を押し込める。ここで涙のひとつでも見せれば、少しは意識してくれるかしら? なあんて。あざとい、全然可愛くない。 でも、泣きたいのはほんとうよ。 「……やだ、ねえ伊作? そんな顔しないでよ、辛気くさい」 「でも、僕、……申し訳なくて」 「待って。お願い、これ以上謝らないで。私、本当に気にしてないんだから」 やめて、泣きそうなの。惨めじゃない、そんなの。それに、そんな事をしたらあなたの隣にいられなくなる。そんなの耐えられないわ。 縋りついて、嘆いて。どうして私じゃあ駄目なの! と叫びたい。あなたはあの子しか求めていなくて、私が見つめるのはいつだって横顔。でも、その横顔をいとおしく思ってるなんて笑えちゃう。……私、頑張ったじゃない。ねえそうでしょう? あなたから相談を受けて、あの子を振り向かせようと一緒に望んでもいない努力をして。結果振られちゃって、落ち込んだあなたを慰めて。これだけ頑張ったんだから、少しは見てくれたって良いじゃない。傍にいてくれる子の大切さに気が付いた、なんてそんな都合の良い展開、所詮は物語の中での出来事だった。 甘い香りが揺れていた。強いその芳香に、くらくらする。 「……伊作、」 「……」 「お願い、友達でいてね」 「…………うん、」 ああ、これはキンモクセイ。冷たい風が甘ったるい匂いで私たちの隙間を埋めていく。なんて不似合いなのかしら、滑稽ね。 じゃあまた明日ね、と私が笑うと彼は幾分かほっとしたように強張っていた表情を和らげ、うん明日、と応えた。そして私は彼に背を向けゆっくりと足を踏み出す。背後から、土を踏み締める音が聞こえた。そっと振り返ると見えたのは彼の後ろ姿。――そういえば、横顔だけじゃなくて後ろ姿も、私は繰り返し眺めていた。 「……、」 ぎゅうと奥歯に力を込める。ぐっと眉根を寄せて拳を作ったけれど、世界は歪む。目頭は熱くなり、鼻の奥がつんとした。 甘い香りが充満している。学校の敷地の隅っこで、私はしゃがんで膝に顔を埋めた。ほんとうに惨めで、嫌になる。 「…………すき」 こんな感情、伝えなければ良かった。 詮ない あなたと私、可哀想ね。 |