いない 最近、食満の様子がおかしい。こそこそと町に出掛けてみたり、部屋にこもったりしている。用具委員会の仕事こそ確実にこなしてはいるものの、後はほとんど学園を歩いている姿を見ない。 私と食満は腐れ縁で、別に特別な間柄ではないけれど、こうも会わないとさすがに気になるというか、違和感がある。 同室の善法寺に話を聞いてみたけれど、はぐらかされて食満が何をしているのかを教えてはもらえなかった。 「と、いうわけでどう思う?」 「何故、俺に聞く」 「食満と仲がいいから」 「はぁ?誰があんな奴と!」 「はいはい、暑苦しいから吠えないで」 「何だとぉ!?」 食満と何だかんだ一緒にいる潮江に聞いてみたけど、人選を誤った気がする。 吠えている我らが会計委員長を諭して、話を元に戻すことにした。 「で、知らない?」 「知らないことはない」 「本当?あいつ何してるの?」 「その前に、お前は食満のことが好きなのか?」 「は?何でよ」 「食満のことなんぞ気にする必要を感じん。あんなヘタレ野郎のどこがいい!?」 「待って、好きなの前提?」 好きじゃないよ、あんな奴。ヘタレだし戦い好きで面倒だし、後輩の面倒見がいいし。あ、間違えて誉めちゃったよ。 私はただ、食満が私に隠し事をしているのが気に食わないだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。 そう潮江に言うと、心底面倒くさそうに直接食満に聞けばいいだろと言われたけれど、食満が素直に言うだろうか。 しかし、いつまでも悶々としていても仕方がないので食満に直接聞いてみることにした。言わなきゃシメて吐かせよう。 「食満、勝手に入るよー」 「名前!?ちょ、待て!」 「開けちゃいましたー。入りまーす」 ガラリと襖を開けると、食満が慌てふためいて何かを隠した。何を隠したんだ? 覗き込もうとしたら食満に阻まれ、見せては貰えず少しだけ腹がたった。 「何?」 「べっ、別に何でもない!それより何の用だよ、突然」 「いや、最近何こそこそしてるのかと」 「別にこそこそなんかしてない!」 「何を慌ててんの?」 「慌ててない!」 怒鳴る食満の背後にある箱が気になって無理矢理、食満から奪い取ろうとした。 当然、食満はそれを阻止してきたので、触らないでよスケベ、と言うと弾かれたように食満は離れた。ふ、ヘタレめ。 「さて…簪?まさか食満が作ったの?」 「…まぁ」 「うわ、器用だねぇ」 「………」 「どうするの?これ」 「…好きな女にやるつもりだ」 「えっ!?食満、好きな子いるの?」 「いるよ」 意外だ。意外過ぎる。食満に好きな子がいて、なおかつ贈り物をしようと手作りまでするなんて。ヘタレのくせに。 食満曰く、町に簪を探しに行ってみたけど、好きな子に似合いそうな簪がなかったので、もういっそのこと作っちゃおうと思ったらしい。凄いな、その発想。 「へぇー…で、告白するの?」 「まぁ、な…」 「その子、彼氏いないの?」 「知らん」 「知らんて…フラれても知らないよ」 「…まぁ、後のことは後で考える」 「馬鹿?結構みんな彼氏いるよー」 「お前はいるのか?」 「いないけど?」 「やっぱり」 「おい、待てこら」 失礼なことを言う食満は神妙な顔をしたかと思えば、急に真っ赤になった。 そして、私の手を掴んで件の簪を乗せてきた。まさか代理告白をしろという気かと食満を睨めば、食満は俯きながらアホみたいに弱々しい声で言った。 「………やる」 「は?だってこれは食満の好きな子にあげるために作ったんじゃないの?」 「だから…っ、名前に、や…る」 「……………は」 今度は私が赤くなる番だった。こんなに可愛らしい簪を食満がわざわざ私のために作ってくれた?てことは食満が好きなのは私ってこと?いやいやいやいや! 何の冗談かと思って目線を簪から食満に移せば、やっぱり赤い顔で珍しく弱気な顔をして私を見ていた。 「つ、付き合ってくれ…」 「う…」 「その…お前、彼氏いないんだろ?」 「まぁ、いないけど…」 「今日から彼氏、いる…ってことにしてだな、その…」 「いや、何を言ってんの、あんた」 食満はかなり動揺しているようで、しどろもどろ話すし、言葉も滅茶苦茶だ。 やっぱり食満はヘタレだ。戦い好きのくせに、いざって時は全然男らしくない。ヘタレのくせして真面目で突っ走る性格だから、わざわざ簪まで作っちゃって。 私は食満から手渡された簪を頭に差して食満に似合う?と聞いたら、食満は相変わらず赤い顔で無言で頷いていた。 今日をもって私は彼氏がいない残念なくのたまから、ヘタレで優しい彼氏がいる恵まれたくのたまに格上げされた。 |