力ない 「うわっ、」 ふわり、と浮遊感が僕に襲い掛かる。しかしそれは一瞬で、僕は直ぐに地面に叩きつけられた。 「痛っ…、あーあ、また負けちゃったな」 「大丈夫か、名前?」 「うん、ありがとう。留三郎」 実技の授業で僕たちは組は二人一組で組み手を行うことになり、ペアになったのが僕と留三郎。 武闘派の留三郎と当たるなんて伊作の不運が乗り移ったんじゃないかな… 結果なんて見えてるわけで、僕は直ぐに背負い投げされて敢え無く終了。 しかも僕は受け身が上手くとれなくて思い切り背中を打ち付けてしまった。 「後で伊作に背中見てもらえ」 「うん」 これでよく六年間やってこれたと思う。だけどそれはみんながいたからで… 僕さ、ずっと思い続けて ずっと言えなかったことがあった。 この学園を去ろうと思うんだ 今さら、と思うかもしれないけど、これからもっと危険な忍務が沢山ある。こんな僕がいたら足手まといだ。それに、僕はもう忍者にはなれない。僕の実家はなかなか名のある家だ。無理を言って学園に通わせてもらっていたが 先日、家から手紙が届いた。 長男の僕は跡を継がなければいけないから早々に退学するように、とのことだった。 丁度よかったと思った。 これを口実に学園を去れるから だけどね、時々思うことがあるんだ。 もしも……、もしも僕が 留三郎や文次郎のように武闘派だったら 小平太のように無尽蔵の体力があったなら 仙蔵や長次のように冷静に状況を判断する事が出来たなら 伊作のように芯のある優しさを持てたなら 僕に力があったなら。 ……なんて。無いものねだりなんて、どうすることも出来ないのにね。 「――? 名前!」 「あ……ごめん。少しぼうっとしてた。」 「やっぱり他にどこか痛いんじゃないか?」 「ううん、大丈夫。」 そういっても留三郎はなかなか信じてはくれず、僕の顔を覗き込む。留三郎が面倒見が良い、というのは何も後輩だけじゃないらしい。 「……名前、お前にはみんながいるんだからな。」 何を思ったか、突然留三郎はジッと俺の目を見てそんなことを言ってきた。 みんながいる、その言葉は僕の心にじんわりと広がっていった。 「ありがと、う」 僕に力があったなら (僕はまだ其処に居られただろうか) |