色のなくした世界で
外を見ると、一面には銀世界が広がっていた。
全ての色をなくした景色を見ると、 世界に俺達2人しかいないような錯覚を覚えた。
「雪が降ったな」
興味のなさそうな声が、返ってくることはない。
「お前の肌のように白いな」
呆れたような声が、返ってくることはない。
雪が降り積もって地面を覆う様子に、何故かほっとしてしまった自分がいた。
そこにあるものを覆っていき、そこに何があったのか忘れ去られていくように。
こうして記憶というものも、だんだん、だんだん、雪に覆われていくような気がした。
雨よりも哀しい記憶も、穏やかになっていくように。
血よりも鮮やかだった記憶も、優しいものになっていくように。
全て忘れられないし、忘れたくない、けれど。
それさえも、雪によって覆われていくような気がした。
雪は降り積もり、物を覆っていき、何があったのか忘れ去られていく。
トシマの王の話が、人々のあいだから忘れ去られていくように。
ただ、忘れようとしない者も存在する。未だにシキに、恨みをかう者も多いという。
シキの現実を、何も見ようとしない。シキの幻を見ているだけだ。
シキを目掛けて襲ってくる男たちは、今でも車椅子に座るこの男が、トシマの王として映るのだろうか?
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