待っている
「アキラ……アキラ」
うわごとのように繰り返される言葉。
きっと今、ケイスケは俺を探しているのだろう。
俺はそばにいるのに、今のお前の位置からはあまりにも遠い。瞳を開けばすぐそばにいるのに、その瞳が開くことはない。
ケイスケは今、きっとこの世の何よりも惨い悪夢をみている。
苦しんでいても、見てくれる人は誰もいない。
独りで泣き叫んでも、助ける人は誰もいない。
これはケイスケ自身が作り出した、血にまみれた悪夢なのだから。
本当は、こんな辛い顔は見たくはない。
しかしケイスケのこの悪夢を作り出したきっかけは、この俺だ。こんな目に遭っているお前から、俺だけ目を逸らすわけにはいかない。
ケイスケはあのトシマでひとり、どんなに苦しい思いをしただろう。
俺には何もできることはなく、そばで悪夢に苦しみ続けるお前を見つめ続けるしかない。
眠っているままのケイスケに、そっと俺は呼びかけた。
待っている。
ここで俺はいつまでも待っている。
ここから去ることなどしない。
だから恐れず戻ってこい。
「アキラ……」
やっと開かれた瞳は、少し潤んでいた。
fin.
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