人の姿をした魚(前編)
ケイスケは、海の中の住人のようなものだ。
それは翡翠色の海なんて、綺麗なものではない。
緋色の海。そのあまりにも鮮やかな色彩は、人によっては美しく見えるのかもしれないが、禍々しさの方が遙かに勝っていた。
なにより作り出した本人が、恐怖を一番感じていた。
その海は、無数の痛みと苦しみと悲しみと叫びで、できているのだから。
ケイスケが殺した人たちの血によって作られた海。
一度おぼれれば、もう二度と浮かぶことが許されぬ海。
実際ケイスケは、この緋色の海の主なのだ。
ケイスケの目が覚める。
今日も、悪夢に溺れることなく起きあがることができた。
海から陸に上がるように。
ケイスケは、目覚めると同時に、感謝していた。
今日という日に、――アキラに。
これでもう、しばらくは溺れずにいられる。泡にならずにいられる。
そう思いながら。
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