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 ケイスケが月よりも綺麗だと思えるようなものの存在を、はっきりと認識するずっと前のことだった。
 あの日2人が見ていたのは、月ではなく、星空だった。

 空気が今よりも汚れていて、空の色は淀んでいた。小さな星すらも、見られるような空ではなかった。
 あの星空が見えたのは、大きな嵐が過ぎた後のことだった。
 あんな風に、あまたの星が見えたのは、珍しいことだった。
 
「綺麗だよな、アキラ!」
 その言葉にどう答えたのか、今でもアキラは思い出せない。
 それでもあの星空の美しさを、見たときの気持ちを、今でもアキラは覚えている。
 隣にいたケイスケが嬉しそうに微笑み、それに共感していたことを、今でもアキラは覚えている。



 あれから随分と経ったのだろう。
 あの星空を見ていたころに比べたら、空気も綺麗になり、月や星を見るのは容易になった。
 一人で見ようと、月の美しさは変わらない。
 だが、ここに月を共に見る者がいるということが、こんなにもこころが満たされるのは何故なのだろうか。

 今見ている空はきっと、何も知らなかったあのころと同じ空ではないだろう。
 それでもアキラは思う。ケイスケが隣で、自分と同じ景色を見ている意味を。
 きっとあのころと同じように。

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