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上手なクズのいなし方



※付き合ってる話



お酒は二十歳になってから。
世間の大学生の間では形骸化してしまったそんな規律も、ボーダーという組織の中では大事に大事に守られていた。
俗世と比較して、ボーダー内では法令遵守がかなり徹底されていると思う。ただでさえ怪しい、未知のテクノロジーを所有する新興組織だ。法律も守れず何が守れるのかとやかましい外野から叩かれるようなリスクをわざわざ冒すなど馬鹿げている。そして、組織の活動には子供の健康な肉体が何より重要ときた。
そんなわけで、ここ界境防衛機関の飲み会では、未成年の参加は認められても、飲酒は当然のことながら固く禁じられているのだった。

にぎやかに盛り上がっている集団の群れから距離を取って、ろくに手も付けられず皿の上に残っていた出汁巻き玉子をつまみに緑茶を飲む。出汁巻きは酒の肴になることを前提としているのだろう。ノンアルコールに合わせるには少しからめの味付けだ。

個室の入り口近くでひとり胡坐をかきながら、あたりを見渡す。どうやらほかの奴らはおおかた歳か所属が同じやつ同士で固まっているようだった。犬飼は二宮さんの向かいで、同じ机の来馬さんの隣には当然のごとく鋼が控えている。当真は冬島さんとエンジニアの人らが固まる机で、酒に手を伸ばそうとして周りから窘められていた。
俺と一緒に店まで来たイコさんは、この席が始まって一時間くらいで早抜けしていってしまった。あの人は寝るのが死ぬほど早いから仕方ない。みんなで徹ゲーしよかと言って集まったときも、言い出しっぺのくせに一番早く寝落ちしていた。二十二時には床につくってなんなん、きょうび小学生でももうちょい夜更かししとるやろ。はなから飲み会になど参加しなくたっていいんじゃないかと思わないでもないが、あの人はきっとわいわいとお祭り騒ぎみたいな場が好きなのだろう。

そんなわけで、俺は大人数の飲み会でひとりぽつんと冷めた料理を片付けて手持ち無沙汰を誤魔化しているのだった。一人でいることが寂しかったり居心地が悪かったりするわけではない。むしろ、さほど砕けた関係でもないような相手とたいして面白くもない話で馬鹿笑いをできるような人間ではないので、こうして気を使われずに放っておかれる方がずっと楽だった。

太刀川さんと加古さんに挟まれ顔をしかめてシャンディガフを飲んでいる二宮さん。顔を赤くしながらも無表情で諏訪さんに冷奴を勧めている風間さん。開発室の面々に年下として可愛がられている当真。それぞれ、普段ボーダーで隊長や年長者として過ごしているときには見せない姿だ。
輪の中にいるよりも、こうして離れたところで他人を見ている方がよほど面白いと思う。裏表というほどではなくとも、どんな人間だってTPOに合わせて態度や振舞いを変える。目の前の相手に合わせて、表情を変える。アルコールもあって無防備に晒された一面を傍観しているのは、なかなか楽しめるものだった。

まあでも、“あの人”はどこで誰といても変わらんなあ。
脳裏に恋仲の相手を思い浮かべて、視線を走らせる。たしか今日の飲み会にも参加すると言っていたはずだ。たくさんの人が雑多に入れ替わり立ち替わりしている中でも、目的の相手はすぐに見つかった。開発室の集団とは離れた場所、俺とは反対の隅のほうで、顔を茹で蛸のように赤く染め、あちらも一人で壁にもたれて座っている。ふらふらと頭を重たそうに揺らして、分かりやすく酔っ払いの姿だ。あぶなっかしいなとじっと見ていると、ふと視線がかち合った。

途端、苗字さんはへらへらした笑みを浮かべてこちらに手を振る。そのまま無視していると面倒なことになりそうな気配を察して、ため息を一つつく。個室一帯を見渡せるこの場所から、ずり這いで彼の隣まで移動してやることにした。畳十畳分ほどの距離を経て、俺が隣まで行くと、苗字さんは満足そうに口許を綻ばせる。

「やあ、水上くん」
「どーも。……それ、何杯めです?」
「いち、にい、さん……、七杯目かな」

俺の問いに、苗字さんは目の前の机に並ぶ空のグラスを数えて答えた。机上にはワイングラスに徳利、ロックグラスがとっ散らかっている。なんでもかんでも飲むな、この人は。
手あたり次第の見境なしはアルコールだけにしておいてほしいものだと呆れてしまう。なにせ彼は、放っておけばいつの間にやら女を連れて宴会を抜けだす常習犯だ。最近はそういったこともめっきり無くなったそうだが、酔った勢いで悪癖がいつ顔を出すか、こちらは気が気じゃない。

「もう終わりにしとき」

彼が手に持っているビールのグラスを無理やり取り上げて、代わりに机の上に放置されていた、水の入ったコップを差し出す。誰が頼んだとも知れない、とうにぬるくなった手つかずのチェイサーだ。

「大丈夫だよ。俺が酒強いの、水上くんも知ってるだろ」
「その顔で言います?」
「見た目だけだって。今まで俺が酒のせいで水上くんに迷惑かけたことあった?」
「はたから見たらどう見ても、素面のやつに絡んどるひどい酔っ払いですよ。今のあんた」
「本質を見ようとしない人間からどう思われるかなんて、考慮する必要あるかな」

顔を真っ赤にして目を潤めながら、彼はいつもの調子で反論する。
そうなのだ。見た目だけは立派な酔っ払いのくせして、どうもこの人はアルコールに弱くない体質らしい。正気を失う姿など、一度も見たことがない。つぶれない、吐かない、二日酔いにもならない、記憶もなくさない。ただ顔が赤くなるだけで、数時間も経てばけろっとしている。自宅で晩酌や寝酒をしている彼を見たことも何度かあるが、いつだって言動はしっかりしていた。

「上辺しか人に見せんくせに、本質見抜いてほしいはわがままちゃう?」
「そのわがまますらも愛してほしい」
「ダウト」
「あたり」

白々しい嘘を吐く唇は、いつものように弧の形を描いている。さほど意味のない虚言を並べ立てるのも、当然のように俺にその虚言を指摘されることも、彼にとってはいつも通りの日常だった。

「水上くんに面倒くさいなーって顔向けられるの、嫌いじゃないよ」
「はあ、面倒な性分ですねえ」
「そうやって適当にあしらわれるのもどきどきするな。お持ち帰りされる女の子の気分がわかるね」

あほらしい。俺が女を持ち帰ったことなどないし、あんたはいつだって持ち帰る側やろが。
何が面白いのかくすくすと笑っている苗字さんは随分とご機嫌な様子だ。わざとらしくしなを作ってこちらにもたれかかってくるのを肩で押し返す。

「俺、初めてだから……。優しくしてね、水上くん」
「きしょい演技すんのやめてもろてええですか」
「冷たいなあ。いくら俺があしらわれるのも好きと言ったって、ちょっとくらい乗ってくれたって罰はあたらないと思うよ」
「この場で一番面倒な人の相手してやっとるんで、そこらの人様よりよっぽど徳は積んどると思いますよ」

軽口の応酬をしているうち、ふと気が付くと机の向こうが騒がしくなっていた。どうやら開発室の面々が帰り支度を始めたらしい。

「苗字さんは帰らんでええの?」
「俺は明日非番だから」
「へえ」

聞いておきながら適当な返事をして、手元のグラスをからからと回した。溶けた氷が緑茶と混ざっていく。グラスに口を付けて傾ける。水に薄められてまずい。もう他の頼んだろかな。

「水上くんは?」
「二限から」
「そっか、じゃあ九時に起きれば間に合うね」

それはあんたの家から家を出た場合やろ。どうやらこの人の中では勝手に、俺が本部の宿舎ではなく彼の家に帰る前提にされているらしい。まあ最初からそのつもりだったが、まだ何も約束はしていない。だが、家主がそのつもりならまあいいかと結論づけて、机の大皿に残された、遠慮のかたまりの若鶏の唐揚げを口に放り込んだ。

「みずかみー」
「あ?」

唐揚げを頬張った矢先、不意によそから名前を呼ばれて、正面に目を向ける。当真が壁にかけていた上着を手に取りながら、こちらを向いていた。

「俺、隊長にタクシーで送ってってもらうけど、お前はまだいんの?」
「おん、めんどい酔っ払いに声かけてしもうたから、責任とって送ってったんねん」
「おー、水上悪いな。そいつ頼んだわ」

冬島さんが苗字さんに呆れた目を向けて俺に言う。
ここまでの関係になるまで半ば無理やりこの人について回ったおかげで、周囲からは幸いにも二人セットで見られている。気が合う者同士つるんでいる、とでも思われているのだろう。自他ともに認める女好きの苗字さんと俺が恋仲だとは、誰も思うまい。

「冬島さん、お疲れさまです」
「あんま歳下に迷惑かけんなよな、苗字」
「分かってますって」

へらへらと薄く笑いながら歳上の同僚に挨拶をする苗字さんの姿はどう見ても酔っ払いなのだが、この人はこれが通常運転だ。冬島さんも冬島さんで、その辺はゆるいのだろう。普段、太刀川さんや当真と話している姿からして想像がつく。

「水上気をつけろよ。そいつ、酒入るとキス魔になるから」
「…………へえ?」

冬島さんが発したその言葉に、俺の横に座る苗字さんの肩が跳ね上がる。聞き流せない言葉を発した冬島さんは、当真たちと連れ立って呑気に店を出て行った。残された俺たちの間に、三十秒ほどの沈黙が流れる。

「……キス魔ねえ」
「あー……、いや違うよ、誤解しないで水上くん」
「誤解?」
「誤解!」

わざと恨みがましく聞こえるような口ぶりで放った俺の言葉に珍しく慌てる苗字さんの姿が少し愉快で、思わず鼻で笑ってしまった。おそらく誤解など俺たちの間に一寸たりとも生まれていないと思うのだが、この人は何をどう想像しているのだろうか。

「俺はてっきり、飲み会の最初にそう宣言しとけば、そういうノリに付き合えるし楽しめる女子が近くに来るし、野郎も近寄らんくなるからそう公言してるんかと思いましたけど」

つらつらと推測を述べていくと、苗字さんは目を逸らして押し黙る。いまにも脂汗をたらしそうな面だ。普段は余裕綽々な彼のこんな姿を見られるのは気味がいい。

「ああでも、諏訪さん辺りが一緒にいるときは失敗しそうやな」

あの人は責任感が強いから、周りからの隔離のために自分から苗字さんの隣に座りそうだ。
頬杖をついてつらつらと並べた俺の言葉に、苗字さんはひくりと唇の端をひきつらせる。

「まるで見てきたみたいに言うね」
「で、苗字さん。今の俺の話ん中になんか思い違いありました?」
「いいや、全く」

正誤の分かり切った答え合わせだった。苗字さんは観念したように苦笑いをすると、両手を頭の横まで上げる。芝居がかった仕草だが、顔が整ったこの男がやるとそれなりに様になっていた。

「話が早いね。流石だよ、水上くん」
「そらどうも」
「だけど、今はもうしてないんだ。俺が水上くん一筋なの知ってるだろ?」
「…………」

周りが騒がしく、そばに誰もいないのをいいことに、彼はそう言ってにこりと微笑む。先ほどまでのお遊びのそれとは明らかに違う声色に、思わず口をつぐんだ。
俺の機嫌を取るつもりでもなく、彼は単に事実を述べているだけなのだろう。べつにこちらは機嫌を損ねたわけでもないのでどうでもいいが、先ほどまでの慌てた様子がまるで演技のようにけろりと態度を変えるさまに呆れてしまう。

「……よう恥ずかしげもなく、そんなん言えますね」
「酔ってるからね。酒の勢いで、普段は言えないことも言えるんだ。明日の朝には忘れてるかもね」

全くもって白々しい。彼は酒の勢いなど借りなくても今の台詞を言えるだろうし、明日の朝になってもこのやり取りはしっかり彼の記憶に残っているに違いない。

嘘を吐くコツは、嘘の中に真実を混ぜることだ。けれど彼の場合は、極まれに話す真実の中に嘘を混ぜてくるから面倒くさい。

「君のことを好きになってから、女の子の連絡先は全部消したし、誘いも断ってる。これでも俺はね、君のことを大切にしているつもりなんだよ。水上くん」
「はいはい」
「……最初は結構照れてくれたのになあ」

俺の適当な生返事に、苗字さんは不満そうな顔を浮かべる。俺の反応を見て愉しむことが目的だということが分かり切った言葉に、素直に羞恥の感情を見せてやるつもりはない。生憎ともうそんな時期は過ぎてしまったもんで、可愛くなくてすんませんね。
ちぇっ、と子供じみた舌打ちをして、彼は飲みさしのビールを喉に流しこむ。彼の手元にあるのは、俺が先ほど彼から取り上げたビールグラスだ。いつの間に手元に取り返していたのだろうか。

「飲みすぎんように気ぃつけてくださいよ」
「水上くんってさ、日本酒とか焼酎とか好きそうだよね」
「人ん話聞いてます?」
「水上くんが二十歳になったら、一緒に呑みに行こうよ。旨い酒出す、良い雰囲気の小料理屋があるんだ。気に入ると思う」
「はあ、苗字さんが女口説くときにつかうとこ?」
「そう、女口説くときにつかってたとこ」

苗字さんはわざわざ俺の言葉を過去形に訂正する。いちいちそんな言葉尻とらえんでもええやろ。

「俺が二十歳になるまでつるむつもりなん?」

俺が二十歳になるまで恋仲でいるのか、隣にいるのか。そういった言葉はあえて使わなかった。
彼の提案を叶えるには、ただでさえ十二月生まれで遠い自分の誕生日を、あと二回迎える必要がある。飽き性のこの人が、そんなに先の約束を今から結んだところで。

「そうだよ。二十歳になるまでも、なってからも、水上くんを離してあげない」
「…………っ!」

こちらがわざとはぐらかした部分を的確に拾って、想定よりも苛烈な言葉を付け足してくる。この人のこういうところがいやらしい。
思わず息を呑んだ俺を見て、苗字さんは満足そうに微笑んだ。性格が悪い。意地が悪い。性が悪い。
不意に苗字さんが伸ばした腕が、俺の耳のあたりの髪を後ろにかき上げる。彼の指が、俺の耳の裏をくすぐった。男同士のふざけあいのスキンシップにしたって、距離が近い。思わず周囲からの視線を気にして、咎める声を上げた。

「なんなん、急に」
「ごめんね、ちょっと邪魔だったから」
「は?」

一瞬、彼の顔が近づいて、俺の耳に柔らかいものが触れる。
それが苗字さんの唇だと気が付いたときにはすでに、彼と俺の距離は先ほどまでと同じ、仲の良い友人同士であればなんらおかしくないものに戻っていた。苗字さんは、何事もなかったかのように平然とビールグラスを傾けている。

「……なにしとんねん」
「ごめんね。キス魔だからさ、俺」

我に返って詰ろうと口を開くも、悪びれた様子の無い彼の言葉に、返す言葉も出てこない。
この人は酔っぱらってなどいない。相手を選ばず誰にでもキスをする悪癖があるわけでもない。もちろん、悪いとも思っていない。一切合切嘘っぱちの言葉を並べて、彼はグラスを呷って残りのビールを飲み干した。

「そろそろ帰ろうか。お手洗い行くから、帰る準備しておいてね」

ことりと、グラスが静かに音を立てて机に置かれた。苗字さんはそう言うと、ひらひら手を振って立ち上がる。

「便所で転ばんよう、せいぜい気ぃ付けや」
「気を付けるよ。水上くんがトイレの床と間接キスになったら可哀そうだから」

個室を出て行く苗字さんの足取りはしっかりしていて、机に残るグラスの数を考えるともはや納得がいかないとすら思う。

一人残された俺は、彼に口付けられた耳を片手で押さえながら、うつむいて深呼吸をする。深呼吸というよりも、もはやそれはため息に近かった。
これだからあの人は、本当に。本当に!!
振り回されるこちらとしてはたまったもんじゃない。動揺をひた隠して、仕返しに憎まれ口を叩くのが精いっぱいだ。
恋人という名のついた関係を手に入れても、いまだに俺は苗字さんに翻弄されてしまっているのだ。




「ああ、始まる前に苗字から預かってるから大丈夫だぞ」
「え?」

出席者の人数と出てきた品数とから見て一人あたりこの程度だろうと大雑把に計算した代金を、幹事である東さんに差し出すと、そう断られた。苗字さんがいるときに会計をすると絶対に奢られてしまうから、先に支払っておこうと思っていたのに、どうやら今回も先手を打たれてしまったらしい。

「まあ、お前と同期のやつらも大体そんな感じだ。歳上には奢らせておけばいい」

たしかに言われてみれば、それは容易に想像がついた。もし苗字さんが払っていなかったとしても、おそらくイコさんが俺の分も合わせて払って帰っていたのだろう。

「す、すんません。ごちそうさまです……」
「いいよいいよ。それは苗字に言ってやれ」

俺の謝罪も礼も、軽く受け流された。言われ慣れている人の対応だ。
まあ給料は歩合制だし飯代が浮くのは単純にありがたいのだが、毎回あの人の金でばかり飲み食いするのも気が引ける。この後帰り道でアイスでも奢ったろうかな、と考えながら千円札数枚を財布に戻していると、それより、と平素よりも少し低い声と共に、東さんに顔を凝視された。

「水上お前、酒飲んでないよな?」
「? まさか」

東さんの心配半分、疑い半分の疑問に、首を横に振って否定する。アルコールを浴びるように飲む大人の介抱こそしたが、自分まで酔っ払いになってやるつもりは毛頭ない。

「そうだよな、それならいいんだ」
「……なんです?」
「顔、ずいぶん赤くなっているからさ。気を付けて帰れよ」
「……は、」

暖房にのぼせたとでも思われたのか、さして追求されることなく会話は終わった。が、俺はそこからどんな表情を浮かべて東さんの前を去ったのか記憶にない。

二人分の荷物をまとめて、個室の入り口の小上がりの端に腰掛ける。顔を伏せたまま、ぐしゃりと髪をかき混ぜた。
顔が赤くなっているなんて、全く自覚していなかった。ああもう嫌になる。ようやく慣れた振りが出来たつもりだったのに。

「おまたせ。……どうかしたの、水上くん」
「なんもありませんけど」
「ふうん……。あ、もしかして顔が赤いの、誰かに指摘された?」

便所から戻ってきた苗字さんは、事もなげに俺に問いかけた。思わずうつむいていた顔をばっと上げて、彼の顔を仰ぎ見る。彼は小首をかしげてにこりと笑っていた。
何も知らない東さんにすら、顔色の異変を指摘されたのだ。最初からこの人相手に、俺のやせ我慢など、隠せていやしなかった。そんなもの、火を見るよりも明らかだ。

「……あんたのそういうところ、嫌いっすわ」
「はは、俺は好きだよ。水上くんのそういうところ、かわいくって」
「……あとで覚えとき、あほんだら」
「手加減してね。ダーリン」

苦し紛れに吐き捨てた文句はあっさりと受け流される。
誰がダーリンやねんぼけ。



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