「もうすぐ春ですね」
「そうですね」

シャルル城のバラ園。エドに「遊びに来ませんか?」と誘われてやって来たのはいいものの、当の本人は不在。急な会議が入ったらしい。
だから、出迎えてくれたのはルイスさんお一人。ひどく恐縮しきりで、見ているこちらが申し訳なくなってしまった。
シャルル城・秘密の花園を貸し切りに出来る機会なんて滅多に無いからと、私はルイスさんにティータイムの用意をお願いした。

――それはまさに、二人で秘密のティーパーティー。





冬、溶けて春雷








ルイスさんはエドワード様に咎められるのでは…と心配していたけれど、エドはそんな器の狭い人じゃないから大丈夫。
それでもまだ渋るルイスさんを無理矢理ガーデンチェアに座らせると、私は有無を言わさずに紅茶を注いだカップを差し出した。

「エドから二人で楽しんで、と言われてますので」

エドの名前を出すと、ルイスさんは仕方ありませんねと小さく笑ってカップを受け取った。
いつもはエドワード印の特製ブレンドの茶葉でルイスさんが淹れてくれるんだけど、今日は私が淹れてみた。…どうだろう?

「×××様は紅茶を淹れるのもお上手ですね」
「本当ですか!いつもルイスさんを見ているので、見様見真似で…」

ここまで言ってはっと気がついた。これじゃまるで、私がルイスさんのことを好きでいつも見ているみたいじゃない。

「……薔薇の季節はもう少し先ですが、庭の花壇も直に見頃ですよ」

ルイスさんが慌てて話題を変えた。ほんのりと頬が色づいているのは気のせい…?

「エドワード様と、×××様の国にあるというフジも植えたいと話しているんですよ」
「藤の花ですか?綺麗なんでしょうね…。見てみたいです」
「×××様ならいつでも大歓迎です」

そう言ってふわりと微笑むルイスさん。こういう温和な笑い方はエドにそっくりだ。子どもの頃は人並みにやんちゃだっただなんて、信じられない。
ルイスさん曰く、王家に引き取られてから必死に頑張った結果、今の自分が出来上がったとのこと。


「…よろしければ、こちらもどうぞ」

出されたのは、袋に入ったパステルカラーの可愛らしいマカロン。

「城下で人気と聞きましたので、取り寄せてみました」
「そうなんですよ。私も食べた事はないけど、話はよく聞きます」

袋を開けて、一つ口の中に入れてみる。サクッとした食感の後、ほのかな甘さが口の中に広がった。

「噂に違わず、美味しいです」
「そう言って頂けると、取り寄せた甲斐がありますね。それに…」




エドワード様には内緒で取り寄せたんです。




そう言って、ルイスさんは少年のようなはにかんだ笑みを浮かべた。





「………」


――私の中のイタズラ心が発動。


「ルイスさん」
「何でしょうか?」
「目を閉じて、口を開けて下さい」
「はい?」


色白い。

肌綺麗。

睫毛長い。



私は目を閉じたルイスさんに思わず見惚れてしまった。


「あの、×××様…?」
「…まっ、まだ目を開けちゃだめです!」


袋の中からピンク色のマカロンを摘むと、そのまま――…



「美味しいですか?」


ルイスさんの口の中に入れた。


「×××様…」
「エドには内緒ですよ」

人差し指を唇に当てて、内緒話のジェスチャー。ルイスさんは困ったように笑うと、同じようにジェスチャーを返してくれた。

「×××様と私の秘密、でございます」

秘密、というフレーズに何だかドキドキしてしまう。ルイスさんの顔がまともに見られなくて、私は咄嗟に違う話題を振った。


「……ルイスさんは春みたいな人ですね」
「私が春ですか?」
「陽だまりみたいなんだけど、春霞みたいでもあって…。冬や夏よりも春のイメージなんです」

付け加えるならば、ルイスさんだけじゃなくてエドのイメージも春だ。柔らかな空気と花に囲まれているイメージ。
二人に真夏の太陽や向日葵のイメージは無いし、冬の寒さや雪のイメージも無い。夏でも冬でもなくて、秋よりは春。
そんなシャルル主従のイメージを思い浮かべている間、ルイスさんは何か考え込んでいた。

「…でしたら、そこに嵐も加えて頂かねばなりませんね」
「嵐…?」


ブルーの瞳が一瞬伏せられて、再度上を向く。


「春には嵐が付きものですから」




春の嵐。



――今、春一番が吹いた。


End.

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コンセプトは「春なのでルイスさんに癒されたい。」
不意にドキっとさせられるルイスさんが見たい...
勿論、ふんわりエアリー癒し系ルイスさんも好きですが。



title by:悪魔とワルツを


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