ウィル王子に誘われて、×××はフィリップ城で行われているパーティーに参加していた。
表向きはウィルの招待だが、そこには愛しいあの人に逢いたいという下心もしっかりと存在している。
夏の執事研修の手伝い、クリスマスの出来事。想いはいつしか形になり、しっかりと×××の中に根を下ろすようになっていたのだ。

――まさかそれが、実を結ぶ日が来るだなんて思っていなかったけれど。





超甘美毒苺シロップ







初春のフィリップ城。今日はいつもの華やいだパーティーとは趣の異なる、こぢんまりとしたパーティーが行われている。
王家の関係者や懇意にしている人達を招いて開かれた、非公式のパーティーだ。


「…手持ち無沙汰って顔だね」
「ウィル…」

壁の花に徹している×××にウィルが声を掛けてきた。先程からホールをちらちらと気にしている×××の様子が気になったのだ。
手持ち無沙汰で寂しげな表情を浮かべている×××。その視線の先には給仕係に混じって飛び回っている人物がいる。
いつもは言われてもウィルの傍を離れようとしないクロードが、今日は珍しく動き回っていた。

「少しは気が紛れるかもしれない」

ウィルから甘いお酒だと言われ、×××は勧められるがままにイチゴリキュールのカクテルに口をつける。

「ホントだ…」
「でも、飲み過ぎないように気をつけて」

そう言い残すと、ウィルは他の招待客にも挨拶する為に、再びホールの中に戻っていった。
本当はこのまま彼女の隣にいたいところだけど、立場上それは許されない。本来彼女の隣にいるべき人物は――。
ちら、とクロードに目で×××に気を配るよう伝えるウィルだった。


「クロードさん、忙しそうだな…」

再び手持ち無沙汰になり、×××はカクテルをおかわりした。しかし、甘くて飲みやすいからといってアルコール分が少ないとは限らない。
飲みやすさに騙されておかわりを重ねていくうちに、、アルコールが体内に溜まっていく。そろそろイチゴの甘さがくどくなってきた。
さすがにこれ以上は危険だと気づいた時には既に手遅れで、何とか会場を抜け出してバルコニーのベンチに辿り着くのがやっとだった。


(何も言わずに出てきちゃった……)

ハンドバッグの中から携帯電話を探し出し、メールを打つ。誤字脱字なく文章を打てたのは、もはや意地と言うべきだろう。
送信完了しましたの文字を見届けると、携帯を握り締めたまま×××の意識は遠退いていった。

その数秒後。クロードの背広の内ポケットで彼の携帯電話が震えた。咄嗟に辺りを見回し、物陰でメールの送信人を確認する。
まったく世話が焼ける…と呟いて、クロードは人知れずパーティー会場を後にした。



*****


――ふわふわしている。


地面に足が着いていなくて、何だか宙に浮いている感じ。

「ん……」

×××が小さく声を上げると、低く落ち着いた声がした。硬質だけれども温かい。×××の大好きな彼の声。

「…あなたは本当に困った人だ」

咎めるような、それでいてどこか心配げな声が×××の頭上から振ってくる。×××はゆっくりと目を開けた。

「前にもありましたね。クリスマスパーティーに招待した時でしょうか」
「んー…覚えてないです…」
「あの時も深酒したあなたをこうやって抱えて部屋に連れていきました」

クロードは×××の体をベッドに横たわらせると、優しくブランケットを掛けて立ち去ろうとした。

「行っちゃ、嫌…」

思わず×××は彼の背広の裾を掴んだ。

「もう少し一緒にいて下さい…」

懇願する×××の声色に、クロードの動きが思わず止まる。少し逡巡した後に、クロードは裾を掴む×××の手をそっと離させた。


「…本当に世話の焼ける……」

ギシ、と僅かにスプリングを軋ませてクロードがベッドに浅く腰掛ける。呆れたように×××を見る眼差しはいつものこと。
酒の所為で熱い×××の頬を両手で挟むと、ゆっくりと顔を近付けた。端正なクロードの顔が近付き、×××は思わず目を閉じる。


――唇が静かに重なった。


それは慈しむように交わす、穏やかな口付け。



「…甘いですね」
「イチゴのカクテルを飲んだので…」
「…それだけではないようだ」


欲情したのはどちらだろうか。次にクロードが×××の唇を奪った時には、荒さと熱を持っていた。

「んっ…」

少しかさついたクロードの唇。それが何度も強く×××の唇に押し当てられる。彼の舌が彼女の唇を軽く舐めると、そのまま口唇を割って侵入した。
なかなか慣れないこの感触。×××は拙いながらも必死に応えようとしている。それを知ってか知らずか、クロードは更に求めてくる。

「ふ、ぁ…」

互いの舌を絡め合い、深く深く口づけを交わす。唇を離して息を吸うのも惜しいと言わんばかりに二人はキスに溺れていった。
クロードが歯列に舌を這わせると×××が小さな吐息を漏らす。いつしか×××も彼の首に腕を回して引き寄せていた。

「×××……」
「クロード、さん…」

小さな吐息と、微かな水音。甘い甘い戯れに、二人は時を忘れて酔いしれた。



*****


二人がようやく離れた時には、パーティーの喧騒も聞こえなくなっていた。


「クロードさん…?」

目をとろんとさせて物欲しげなに見つめる×××に、クロードはわざとらしく大きなため息をついた。


「酔った女性を抱くような真似はしないので。…たとえそれが恋人でも」


彼女の額に軽くキスをして、クロードは今度こそ部屋を出ていった。


「……危なかったな」


廊下に出たクロードは、右手で口元を隠しながら一人そう呟いた。

下戸でも酒豪でも無いので、酒は嗜むぐらいなら飲める。酔って醜態を晒した事も無い――と信じたい。
それなのに彼女から燻るアルコールは我を抑えるのに精一杯だった。もう少し離れるのが遅ければ、彼女の体をシーツに縫いつけていたことだろう。
彼女の全てを味わいたい。そんな衝動がクロードを突き動かしたのは事実。いつまでも理性を保っていられる程、出来た人間ではない。

×××もそれを期待していたかもしれない。だが…


「……今度、休暇を取ってみるか」


その時は、リキュールよりも甘い甘い彼女に心ゆくまで酔いしれよう。



End.

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番外編X'masナイトから妄想が広がって書き上げたクロードさん。
キスシーンをもっと長々と書きたかったけど、力尽きました...


title by:Peridot


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