――そうだ、アルタリアに行こう。

…なんて軽いノリで連れてこられた、アルタリア。連れてきた張本人はこの国の王子様で、私と彼はなんとなく気が合った。
王子様のくせに形式張った堅苦しい事が苦手な彼は、幾度と無くお城からの脱出を試みている。
まぁ、そのたびにお付きの執事様に首根っこ掴まえられて連れ戻されるんだけど。…それは彼が本気で逃げ出そうとは思っていないから。
必ず居場所を突きとめて連れ戻しに来てくれる人がいると知ってるから、彼も逃げ出すのだろう。
そう彼に言ったら、「あいつが本気になったら、きっと逃げ出すことすら出来ないって」って笑われた。


あの人の本気って、どんなものなんだろう?





玩具のナイフの隠し場所







「…アルの本気が見てみたい?」
「うん」

ある晴れた日の昼下がり。私は彼―アルタリア王国の王子様、ロベルトとティータイムを楽しんでいた。
他愛もない世間話が一段落したところで、私は前々から思っていた事を彼に話してみたのだ。

――あの人の本気が見てみたいと。

「本気って言っても色々あるけど、×××ちゃんはどんなのが見てみたいの?」
「どんなのって言われても…」

うーん、と首を傾げた私に、ロベルトが人差し指を立てて真顔で言う。

「お説教してる時のアルは本気だと思うけど」
「もー、違うわよ。その、私の為に本気になってくれるアルベルトさんが見たいというか、何というか…」

何故かロベルトにはバレてしまった、私がアルベルトさんに抱いている想い。それはまだ、恋と呼べるほどには成熟していない、淡い淡い思慕。


「それじゃあ、今度一緒に出掛ける?この間、美味しいケーキの店を見つけたんだよね」
「ケーキのお店?行きたい!」
「よし、アルには内緒でね」
「はい?」
「そうと決まれば早速計画を立てよっか」
「け、計画って…ちょっとロベルト!?」

あれよあれよという間にロベルトが話を進め、かくして私とロベルトのお城脱出大作戦が決定して――…


数日後に決行された。


*****


「…ホントに良かったのかな?」

お城を抜け出してから、数十分後。私とロベルトは彼が見つけたお勧めのケーキ屋さんに来ていた。
お抱えパティシエ達が作るケーキと比べても何ら遜色のないケーキに舌鼓を打ちつつも、脳裏を過ぎるのはアルベルトさんのことばかり。
脱走常習犯のロベルトだけじゃなくて私までいなくなったから、きっと心配していることだろう。

「ま、大丈夫でしょ。アルだってここら辺の地理には詳しいから、行き先の目星ぐらいはついてると思うよ」
「ロベルト?」

何か引っ掛かる物言いのロベルト。まるでアルベルトさんが私達の行き先を知っているとでも言いたげだ。

「…何か企んでるでしょ?」
「そんなことないって。…それよりもさ」

きょろきょろと周りを見回して何かを確認するような素振りを見せたロベルトが、小声になって聞いてきた。

「アルのどこがいいわけ?」

…そう来ましたか。

「どこって言われると困るんだけど、気づいたらす」
「ちょっと待って。その気づいたらの部分をもう少し詳しく」
「詳しくも何も、ホントにそうなんだもん。最初はお母さんみたいな人だなって思ったけど」
「うんうん」
「それだけ色んな事を考えている大人の人なんだなと思って、実は優しい人なんだなとも分かって、気づいた時にはす」
「はい、ストップ。色んな事って?」
「ロベルトの事とか、この国の事とか。アルベルトさんって、心からこの国を愛してるんだなって」

ロベルトに“アルのどこがいいわけ?”って質問されるのは初めてじゃないけど、やけに今日は細かく聞いてくるなぁ。

「そっか。×××ちゃん、本当にアルのこと…」

―好きなんだね。

ロベルトは優しく微笑むと、私の髪をくしゃりと撫でた。兄妹なんかじゃなくて、友達とも少し違う私と彼の関係。

「…うん。私、アルベルトさんのこと好」




「ロベルト様」



背後から聞き慣れたバリトンの声がした。



「ア、アルベルトさん!?」


慌てて後ろを振り向くと、そこに立っていたのは話題の張本人、アルベルトさんだった。
目を白黒させている私、今にも雷を落としそうな雰囲気のアルベルトさん、何やら落胆した表情のロベルト。
おしゃれなケーキ屋さんに全くもって合わない三人だ。他にお客さんがいなくて良かった…。

「詳しくは城に戻ってから聞きましょう」
「アル、もう一歩遅く来てもらいたかったよ…」

ロベルトのぼやきなど全く意に介せず、アルベルトさんは彼をリムジンに乗せた。次いで私も乗るように促され、慌てて乗り込んだ。
私が後部座席に座った事を確認するとアルベルトさんも乗り込んで、リムジンは静かに発車する。

――そして、いつものようにお城に連れ戻された。


*****


私までも連れ出したということで、さっきまでいつものお説教プラスアルファを受けていたロベルト。
さすがにこれはまずいと思ったのか、今はアルベルトさんに渡された未決済書類の山と格闘している。
一緒に(ごくごく僅かな)お説教を頂いた私は、アルベルトさんと自室に向かって廊下を歩いているところだ。

「×××様も、ロベルト様の甘言に乗せられないで下さい」
「…ごめんなさい」
「まったく、どれだけ心配したことか…」
「…反省してます」

しゅんと肩を落とした私に、アルベルトさんがふと思い出したかのように聞いてきた。

「私の本気が見てみたいと言われたそうですね」



!?



「そ、その、深い意味は無いというか、出来心だったというか、好奇心だったというか…」

必死に誤魔化してみるものの、羞恥心で顔が赤くなっていくのが分かる。体中の血液が沸騰しそうなぐらいに熱い。


「ロベルト様がこの地区に×××様と行きたいと、数日前からやたらおっしゃっていましたが、×××様の為だったんですね」
「え…」



“行き先の目星ぐらいはついてると思うよ“

あの時、ロベルトはそう言った。それはアルベルトさんが大体の行き先を知っていたからだ。
だけど、彼が何を思ってアルベルトさんに示唆するような事を言ったのかは分からない。
ノリが軽いように見えて、実は物事を深く考えているロベルトのことだ。アルベルトさんに何かを伝えたかったのだろう。
そしてアルベルトさんもロベルトが伝えたかった何かを理解したに違いない。

…そんな二人の絆がちょっとだけ羨ましい。



「×××様」

名前を呼ばれて顔を上げると、アルベルトさんのアンバー色の瞳に私の姿が映っていた。じっと見つめられ、また顔が赤くなる。


「貴方がどのようなつもりで私の本気が見たいと言ったのか分かりかねますが」

ふ、と緩められた口元。

「…私はいつでも本気ですから」

そう言って目を細めるアルベルトさんは、今まで見てきた彼とは比べものにならないぐらいに綺麗だった。



End.

−−−−−−−−−−
恋愛未満のアル←ヒロインだけど、アルも満更ではないという。
ロベルトが話を引き延ばそうとやけに細かく聞いてきたのは、
タイミング良くアルに聞こえるようにヒロインに好きって言わせたかったから。



title by:悪魔とワルツを


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