最近、気になる奴がいる。気にしなきゃいいのに、どうしても気になってしまう。
何で気になるのか自分でも分かんないし、いくら考えても結論が出てこない。

頭の中でもやもやがグルグルと渦巻いて、ここ数日仕事が疎かになっている。


……重症だ。




ハニィレモンに溶けてゆく







ある日のこと。キャサリン様に呼ばれて彼女の部屋を訪れた。何か用事があって呼ばれたわけではなく、“友達”として呼ばれたらしい。
ティータイムの相手をして、色々とあってこの城に滞在している×××の話を聞かされていたら。


「そう言えばリューク。あなた悩みがあるんじゃないの?」


――唐突に悩み事相談が始まった。


正確に言えば、強制的に悩み事を打ち明けさせられる相談会。どうやら、キャサリン様は悩み事相談に凝っているらしい。
どれだけ悩みなんてありませんと否定しても、彼女は聞き入れなかった。…こういう時の有無を言わせぬ迫力は、キース様そっくりだ。

まぁ、そんなこんなでオレはここ最近の悩みをキャサリン様に打ち明けることになったのだ。


「…悩みってほどでもないんですが、実は最近――…」



一通り話し終えた後、うんうんと何か確認するかのようにキャサリン様は頷いた。そしてオレの顔をじっと見つめて。


「…リューク、それは恋よ」


人差し指を立てて、自信満々にそう言い切った。


「あなたは×××のことが好きで好きで仕方ないの。だからつい意地悪を言ってしまうんだわ」
「そういうものなんですか…?」
「えぇ、そういうものよ」

×××もあなたのこと嫌いじゃないから頑張って!とキャサリン様によく分からない応援をされた。
ふーん、オレは彼女に嫌われてないのか。そうか……って、何をオレは安心しているんだ!



――それから数日。

全くもって腑に落ちない。どうしてオレがあんな庶民女を好きにならなきゃいけないんだ。
キャサリン様は恋だと言い切ったが、そんな事はない。マナーも立ち居振る舞いも全く出来てない女相手にどうして…。
そりゃ、キース様の無茶ぶりに対してよくやってるとは思うし、たまに可愛いなって思うときも無いわけでは……


「……さん」
「はー…一体何なんだよ……」
「…さん!」
「どうしてオレが……」
「…リュークさん!」
「え?」

名前を呼ばれ、我に返る。振り返れば、×××がほうきを持って仁王立ちしていた。

「廊下のお掃除、終わりました」
「あ、あぁ。そうか」
「最近のリュークさん、変ですよ」
「変ってお前、失礼な奴だな!」
「だって本当のことじゃないですか。今だってぼーっとして、何か一人でぶつぶつ言ってたし」
「なっ…!お前が終わらせるのが遅いからだろうが!」
「逆ギレですか?」
「何でそうなるんだよ!」

くだらないと思いつつも、言い争いは止まらずヒートアップするばかり。子どもじみた罵り合いが無人の廊下に響く。
しばらく経ってひとしきり文句を言い終えたオレ達は、まったく同じタイミングでため息をついた。

「…私、思ったんですけど」

やけに神妙な顔で、彼女はオレの顔をじっと見上げてきた。そんなに見るなって!…照れるだろ!

「もしかしてリュークさん、私のこと好きなんですか?」



は?



「やけに突っかかってくるのも、好きな子ほどいじめたいっていう感じで」

ニヤニヤというか、嫌な感じの笑みを浮かべてそんな事を聞いてくる×××に腹が立つ。そんなはずがないって思ってるんだろうな。
オレだってそう思いたい。こんな庶民女のどこが良いのか分からない。好きになるわけないって思っていた。好きになるはずがなかった。

なかったのに…


「…あぁ、そうだよ!オレがお前のことを好きで悪いか!」

これぞ売り言葉に買い言葉。勢い任せで飛び出していった言葉を否定するより早く、オレは×××の体を抱きしめていた。
抱きしめられている当の本人は、何が起こったのか分かっていないようだ。微動たりともせず、されるがままに立ちすくんでいた。

「おい、×××…?」

殴られるのか、泣かれるのか。オレは恐る恐る彼女の体を離して、その顔を覗き込んでみる。――×××の顔は赤かった。

「…もう一回、言って……?」
「はぁ!?」

ばっと顔を上げた彼女がそんな事を言うもんだから、オレは眉間に皺を寄せて声を荒げてしまった。

「その、本当に、リュークさん、私のこと……」

信じられないと言わんばかりに確かめようとする×××。一体どういうつもりなんだよお前!?それともこれは神の試練なのか!?


――仮にこれが神の試練なら、覚悟を決めろってことなんだろうな。



「……だから、好きなんだよ。お前のこと」

改めて言うと恥ずかしすぎる。冗談ですよね?って聞き返してくれれば、冗談と言って流すことが出来たのに。一時の気の迷いだって自分に言い聞かせたのに。
だが、×××は聞き返してこなかった。顔を紅潮させ、またも立ち尽くしていた。…こんな顔もするんだな。
さてどうしたものかと手を伸ばしてみれば、彼女の方からぼふっと効果音が付きそうな勢いで飛び込んできた。



「私も好き!」



何だよそれ!


人が散々悩んで口に出来なかった事を(結果的には勢いで言ってしまったが)あっさり口にした×××に、オレは思わず文句を言いそうになる。
いつから好きだったんだとか、人の気持ちを知ってて試すような事をしたのかとか、聞きたい事・言ってやりたい事はたくさんある。
だけど今は、腕の中に収まった彼女がぎゅうぎゅうと痛いぐらいに抱きついてくるもんだから、これもこれで悪くないと思ってみたりして。



End.

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リューク×ヒロインは、甘酸っぱい青春恋愛をさせたい組み合わせ。


title by:Peridot


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