「……」
「…………」
「………………」

テーブルのこちら側と向こう側。何故かクロードさんと対峙して座っている私。先ほどから沈黙が重たく感じられるのは私だけでしょうか。
相変わらず無表情のような、不機嫌顔のような、むすっとした表情のクロードさん。これも沈黙を重たく感じさせている要因の一つだと思う。
もう少し表情を柔らかくしてもいいのに。クロードさんが数ミリだけ口の端を上げて表情を崩す、それだけで私の心は大きな音を立てるというのに。

……じゃなくて。

一体、どうしてこうなったんだろう――…





ハートのエースは射抜かれた







話は数日前に遡る。クロードさんから働かざる者食うべからずと言わんばかりに、酷い有様の衣装部屋の片づけを頼まれた。
ついでに、これだけ入り浸っているんだから、もうお客様待遇する必要ないでしょうともばっさり言われてしまったのだ。
ただでさえクロードさんには口じゃ勝てないのに、そこまでばっさり切り捨てられてしまっては何も言えず、ここ数日衣装部屋の片づけに追われていた。

そんな最初は絶対に無理だと思っていた片づけも、クロードさんが何だかんだ言いつつも手伝ってくれたおかげで終わらせる事が出来た。
その中でクロードさんって実は優しい人だと思ったり、崩れてきた段ボール箱から庇ってくれた時に実はたくましいということに気づいたり。
正直に言ってクロードさんには怖いイメージしかなかったから、一緒にいると違う意味で緊張している自分に気づいた時は何かの間違いだと思った。
だけど、私はもっとクロードさんと一緒にいたいとも思っていた。口実なんか無くても一緒にいたいと。
それはクロードさんも同じだったみたいで。この気持ちが何か分からないが、一緒にいたいとは思うと言ってくれた。

それじゃあ、試しにお付き合いしてみましょうとなったのだが、ここで問題発生。何をしたらいいのか分からないと言われてしまったのだ。
私は恋人っぽい事がしたいと伝えたのだが、一体それは何だという話になり、何故か小さな会議室で緊急会議である。

「具体的に何をお望みなんですか?」
「望むっていうか、その、二人で一緒に過ごしたり、たまにお出掛けしたり出来ればと……」
「なるほど」
「……あの、失礼を承知で聞きますが、クロードさんはおつき合いの経験っていうのは?」
「皆無ですね」
「意外です」
「そんな暇は無かったし、そもそも興味がありません。そういうあなたはどうなのですか?」
「私ですか?まぁ、一人二人なら……」
「……そうですか」

それきり、クロードさんは黙り込んでしまった。


――そして冒頭に戻る。


クロードさんはクロードさんなりに考えてくれているんだと思う。その気持ちは十分に伝わってくる。


「あなたが何を望んでいるのか、私には分かりかねます」

一瞬視線を落としてクロードさんがそう言った。

「しかし、善処しようとは思っています」
「……はい」
「何かあれば言って下さい。もう私とあなたは、他人ではないのだから」

他人ではない。

この一言がとても嬉しかった。何だかランクアップした気がする。
私自身の考える、クロードさんの中の私は一応お客様で手のかかる面倒な存在だったから。

「では、この話は終わりです」

すっと立ち上がったクロードさんが、慌てて立ち上がろうとした私を手で制して、静かに椅子を引いてくれた。
手を取られて、いっぱしのお姫様のお相手よろしくエスコートしてくれる。

「私は用があるので客室までお送りできませんが、迷わず戻れますね?」
「さすがにもう城内では迷子になりません」
「当然です。どれだけ入り浸っているとお思いなんですか?」
「う……」

相変わらず嫌味というか、一言余計だというか……。でも、そんなところも好きだと思ってしまうからたちが悪い。

「それでは×××、また後ほど」
「え、今…」


ドアが開く直前、名前を呼ばれた気がした。

そして――…


――ほんの一瞬、額に何か柔らかなものを感じた。



クロードさんが角を曲がって姿が見えなくなったのを確認すると、私は部屋のドアを閉めてへたりとその場に座り込んでしまった。
そっと自分の手で触れてみた頬と額が熱い。


私が何を望んでいるか分からないと言ったクロードさん。


「――クロードさんの、嘘つき」


私の望みなんて、十二分に分かっているじゃないの。


End.

−−−−−−−−−−
いつぞやのGREE版執事イベントを本家ヒロインでやってみたら話。
もう一度、クロードさんと衣装部屋に閉じこめられたいです。



title by:ロストガーデン


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