ジャンさんに呼ばれてドレスヴァン城に来たところ、ジョシュア様に「どうせなら食べていけ」と言われ、ディナーのご相伴に預かっている。
基本、ジョシュア様は食事中に喋らない。会話はするけれど、おしゃべりはしない。広いダイニングルームで二人、黙々と夕食をとっているだけだ。
食後のコーヒーを飲みつつ、さてどうしようかと思っていると、ジャンさんがジョシュア様に声を掛けた。

「……それではジョシュア様、私はこれで下がらせていただきます」
「あぁ、ゆっくり休め」

ジョシュア様はちらりと脇に控えていたジャンさんを一瞥しただけで、すぐに視線を戻した。
一礼してジャンさんがダイニングを退室する。……何故か私を連れて。

「あ、あの!」
「何でしょうか?」
「もう今日のお仕事は終わったんですか?」
「はい。優秀ですから」

茶目っ気たっぷりにそう言って笑みを浮かべるジャンさん。こういう表情をする時のジャンさんを私は知っている。

――何か面白い事を思いついた時のジャンさんだ。





美味しい少女の作り方







連れて行かれた先はジャンさんの私室だった。ベッドと本棚に、小さなテーブルとソファー。それは別に年季の入った木の机と椅子。
机の上には読みかけと思わしき本が乗っている。何度か入れてもらったことのあるこの部屋は、相変わらずこざっぱりとしていた。

「適当に座って」
「あ、はい」

促されるまま、ソファーに腰掛けた。……後ろで、ジャンさんが何やらがさごそとやっている。鼻歌が聞こえてきそうだ。
気になってそちらを覗き込むと、ジャンさんは手にワイングラスを持っていた。目が合うと、ジャンさんがにこりと微笑んだ。
テーブルの上にワイングラスを二つ置くと再びがさごそと何かを漁り、今度は一本のワインボトルを見せてくれた。

「ジョシュア様に見つかると、飲まれるから」

ふと、前に国王様秘蔵のワインをジョシュア様が勝手に空けた(それも一瓶全て!)という話を聞かされた事を思い出した。
バレないように隠し通すのが大変でした…と、ジャンさんは遠い目をして話してくれたっけ。

「それに、どうしてもこれは×××と一緒に飲みたかったんだ」
「何でですか?」
「さぁ、何でだろう」

ジャンさんは私の隣に座ると、ワインボトルの栓を抜いてグラスに注いだ。赤ワインの香りがふわっと広がる。
優雅な手つきで、さっとワイングラスを差し出された。

「ヒントはラベル」
「ラベル?……あ、もしかしてこれ…」
「正解」

ラベルに刻まれていた年号は、私の生まれた年だった。

「とりあえず、乾杯しておく?」
「そうですね。とりあえず」

乾杯と言って互いにワングラスを軽く掲げた後、そっと口を付けた。甘さと酸味が絶妙なバランスで交じり合っている。
私があまり赤ワインを飲んだ事ないのを知っているから、飲みやすいものを選んでくれたのだろうか。
……だとしたら、嬉しすぎる。

「気に入ってくれた?」
「はい!酸っぱ過ぎなくて飲みやすいです」
「それなら良かった」

これなら食べる物も用意しておけばよかったと溢らすジャンさん。何かあったかなー…と、思いを巡らせているようだ。

「ま、別に無くてもいっか」

肩を抱いていたジャンさんの手が不意に腰に回り、ぐいと力強く引っ張られた。

「ジャンさん!」
「この方が、顔が見えるだろ」

引っ張られて辿り着いた先は、ジャンさんの膝の上。向かい合うように座らされた。

「いつも頑張ってるから、たまにはご褒美をと思いまして」
「ご褒美、ですか…」

本気なのか冗談なのか分からない。その顔をされると私が何も言えなくなるのを知っててやってるくせに。
ホント、ジャンさんには敵わないなぁと思いながら、コテンと身を預けた。

「……って、ジャンさん!どこ触って!!」
「可愛い彼女が目の前にいて、しなだれかかってきたら、男としては…ねぇ」
「そ、そういう問題じゃないです!」
「おっと。暴れると危ないよ。…それに」

そわそわと動く手に思わず抗議をすれば、ワイングラスを取り上げられてテーブルの上に置かれた。


「君に会えない間、ずっと我慢してたんだ。――もう、限界」


ずるい。本当にジャンさんはずるい人だ。私がその表情と声色に弱いって知ってるくせに。
そんな風に言われたら、もう何も言えなくなってしまう。


それに、私だって――…


「……でも、ここじゃ嫌です」
「かしこまりました。プリンセスの仰せのままに」

ジャンさんはふっと表情を緩めると、私の体を横抱きで持ち上げた。

「寝かさないと思うけど、いい?」
「…望むところです」
「代わりに明日は昼まで寝ていてもいいよ。ベッド貸すから」
「でも、ジョシュア様に朝ご飯でおにぎりを作ってくれと頼まれたので、一度起きます」
「俺のは?」
「サンドイッチとパンケーキ、どちらがいいですか?」
「おまかせで」

そんな他愛もない話をしながら、ふわりとベッドの上に下ろされる。頬を一撫でされ、額にちゅっとキスされた。
何だか恥ずかしくなってふいっと顔を背けると、ジャンさんが苦笑するのが分かった。
そして、ジャンさんがネクタイ緩めながらぽつりと一言呟く。



「――いただきます」


End.


−−−−−−−−−−
ジャンさんといちゃいちゃしたかった。
男の人のネクタイを緩める動作って萌えるよね!



title by:ペトルーシュカ


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