アンタの前では寛大で理解力のある男のふりをしていたいんだ。
だからもう少し、人の気持ちを汲んでくれるとありがたいんだけど。
……そう思うってこと自体、ガキの証拠なんだろうな。
●●●諦めの悪い僕なので●●●
PM3:47―オリエンス城
紆余曲折(では纏めきれないぐらいの遠回り)を経て、×××をプリンセスとして認めさせた。
婚約披露もしたし、これでようやく一安心…ってワケにもいかなくて、まだまだ問題は山積みだ。
国王はまだ渋ってるし、ユウも諦めたのか怪しいところがある。大臣達も納得したのか微妙だし。
ただ、王妃が味方っていうのはありがたい。父上も母上には頭が上がらないんだよな…。
「…で、人がこんなに苦労してるってのに、当の本人は……」
ついさっき×××から来たメールを見て、思わずため息をついてしまう。
『今日は大学のゼミのコンパがあるから、夜に電話をもらっても出れないの。ごめんね。』
――非常に面白くない。
全員そうだとは言わないけど、アンタに下心満載で近づく男だっているんだぞ。分かってるのか?
×××にも×××の付き合いがあるんだろうけど、少しはこっちの気持ちも考えてもらいたい。
「…くだらねぇ」
自分は独占欲が強い方だとは思っている。だが、この感情が嫉妬であるとは認めたくない。
嫉妬だなんてガキみたいなことはしたくないと思う、それ自体が子供じみていると分かっちゃいるんだけど。
PM8:16―シャルル市街
×××「あの私、彼氏いるから…」
男「遠恋なんだろ?大丈夫だって」
×××「ホントにダメだから」
――所属する大学のゼミのコンパだったはずが、何故か他校のゼミとの合コンに変わっていた。
とりあえずコンパが終わったらさっさと帰ろう。二次会は断ることにして、私は片隅でじっとしていた。
目立たぬようにソフトドリンクを飲んでいたはずなのに、何故か他校の男子に目をつけられてしまった。
しつこく誘ってくるのを頑なに断っているものの、あまりのしつこさに内心泣きそうだ。
??「……あらー、その子に手を出さない方がいいわよー」
無言のヘルプが届いたのだろうか。気心知れた同じゼミの友人が気づいて助け船を出してくれた。
友人「手を出したら、ただじゃすまないからね。これ、脅しでも冗談でもなくてホントに」
一国の王子の婚約者、しかも未来の王妃に手を出したとなれば、相手方は黙っていない。…特にグレンくんは。
この男子学生も“オリエンス王国”の“グレン王子”の婚約者が一般人だということは知っているはず。
だけど、その婚約者が目の前にいる女子学生―私だとは気づいていないようだ。
友人「×××の彼氏、クールなイケメンでちょっとヤキモチ焼きの可愛い年下の男の子だっけ?」
×××「!?」
どういう形であれ、この場を切り抜けられたことに私は安堵のため息をついた。友人に感謝しなくちゃ。
彼女の突然の暴露話を必死に止めながら、私は今度ランチを奢ることを決めた。
PM10:03―オリエンス城
「…さすがに終わってるよな」
×××にも×××の付き合いがある。そう思って電話もせず、メールもしないでひたすら耐えた。
ここまで我慢して待っていたんだ。傍らの携帯電話に手を伸ばすと、電話帳の一番上にある番号を選択した。
「………×××?」
呼び出し音が数回鳴った後、待ちに待った彼女の声が聞こえてくる。
“どうしたの?”
「…コンパ、終わったんだろ?」
“うん。終わってさっき帰ってきたところだよ”
どうやら、二次会に行かず真っ直ぐ帰ってきたらしい。
「変な男に絡まれなかったか?」
「だっ、大丈夫だったよ!」
…やっぱり。
コイツは嘘をつくのが下手すぎる。
上擦った声で大丈夫だったと言われても、信憑性に欠ける。と言うか、怪しくて仕方ない。
はー…と長いため息の後に無言の圧力を掛けてやれば、案の定弁明をし始めた。
“で、でも!ちゃんと彼氏がいるって言ったし…”
「彼氏じゃなくて婚約者」
“それはそうだけど…”
「…で、どういう風にオレの事を言ったワケ?」
彼氏がいると公言した以上、どんな人物か聞かれたに決まっている。×××が普段オレの事をどう思っているのか聞いてみたくなった。
黙って促すと、×××は電話口からでも分かるぐらい、かなり言い辛そうに口を開いた(別に圧力をかけたつもりはない)
“………クールなイケメンで、ちょっとヤキモチ焼きの可愛い年下の彼氏…”
クールなイケメンは良いとして、ヤキモチ焼きも一応認めてやる。だけど可愛いは違うだろ!
「アンタ、オレの事をそういう風に見てたんだ」
「だ、だって…!」
とりあえず、“可愛い”は撤回させないと。この年にもなって、可愛いと言われて喜ぶ男なんていない。
「…来週」
“来週?”
「時間が出来たから、こっちに来いよ。シャルルの空港まで迎えに行ってやるから」
“え…ホントに?”
「あぁ。予定していた会合が延期になった。アランも会いたがってたし、丁度いいだろ」
“……その、グレンくんは…”
――グレンくんは会いたくないの?
「…鈍感」
アランが八割方口実だって、いい加減気づけよ
「ホント、アンタといると飽きないな」
どういう意味かよく分かっていない×××が電話の向こうで何か言ってるけれど、あえて無視。
来た時にたっぷりと時間をかけて教えてやるよ。だから今のうちに覚悟しておけ。
「来週、会えるのを楽しみにしてるから」
“…私も楽しみにしてる。グレンくんも、お仕事頑張ってね”
「ありがと。アンタもちゃんと勉強しろよ」
“私だってちゃんと勉強してます!”
「冗談だって。明日も講義があるんだろ?さっさと寝ろよ。おやすみ。それと………」
「 」
最後に一言付け加えて電話を切った。今頃真っ赤になって固まってるんだろうな。容易に想像がつく。
きっと、自分の顔も同じぐらい熱くて赤いんだけど。
End.
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グレたんはヒロインの前で背伸びをして悶々とすればいいと思うよ!
18歳なのにしっかりしてるよね、彼。
title by:Peridot