それはグレンくんからの一本の電話。

「…短期留学?」
“あぁ。国交を深める意味もあって、みっちり一週間通うことになった”
「それじゃまさに公務だね…」
“一応公務だけど、普段の公務から考えれば羽が伸ばせそうだ”
「ところで、どこの大学に行くの?」
“シャルル”
「そうなんだ」
“×××の大学に通うから、よろしく”





ロマンスがやってくる!







オリエンス王国のグレン王子が短期留学やって来るという話は一気に大学内を駆け回り、構内を浮き足立たせた。特に女の子。
どの講義を受けるかは極秘扱いだから、どうかグレン王子と同じ講義になりますように!とやきもきしている。
かくいう私もやきもきしている一人で、グレンくんが教えてくれるのを今か今かと待っていた。
そうして昨日、前日になってようやくスケジュールが判明した。週五日×四コマのうち、三コマが同じだったのだ。

「隣に座るのは難しいだろうけど、同じ教室にいるんだよね…」


どうやらこの一週間、気合いを入れて講義を受けることになりそうだ。



*****


――月曜日。


お昼休みになって携帯を確認すると、メールが届いていた。…グレンくんからだ。

『昼、食堂で食べてみたかったけど無理だった。
空き教室貸してもらえたから、×××も来い。』



「…グレンくん!」
「×××」

窓際の席に座ってパンを噛っているグレンくんは、まさに男子学生そのもの。彼は王子様なんだけど、大学生でもあると実感する。
その隣に座って私もお弁当を広げた。グレンくんがお弁当をちらと見た。

「作ってんの?」
「うん。自炊だと節約にもなるから」
「そうか」

――ひょい。

グレンくんは弁当箱から卵焼きを一切れ摘むと、ぽんと口の中に放り込んだ。

「…ん。うまい」
「私の卵焼き、勝手に食べないでよ…」
「代わりにこれやるよ」

そう言って机に置かれたのは、イチゴ・オレの紙パック。

「ユウに頼んだら、コーヒーだけじゃなくてこれも買ってきたから」

…私とユウお兄ちゃんは知っている。グレンくんが実は甘いもの好きだという事を。
それを言ったらグレンくんが拗ねるのは目に見えているので、ここは有り難く頂戴することにした。

「グレンくんは王子様だけど、大学生でもあるんだよね…」

正装のキリッとした王子様のグレンくんも好きだけど、ラフな格好で缶コーヒー片手にパンを食べてる学生のグレンくんも好きだなって思う。

「グレンくん、午後は何の講義を受けるの?」
「シャルルの歴史学と文学」
「歴史学って眠くなるって評判の講義だよ、確か」
「そっか。寝ないようにしないとな」

ふ、と笑って席を立つと、グレンくんはほんの一瞬の早業で額にキスをした。

「…また後で」

ひらひらと後ろ手に手を振ると、コンビニの袋を手にして先に教室を出て行くグレンくん。
お城にいる時は有り得ない光景。こういう些細なやりとりが何だか新鮮で、何だか顔が緩んでしまう。


「…メール?グレンくんからだ」

さっき別れたばかりだというのに、一体何だろう。特に忘れ物も無さそうだし…。
疑問に思いながら、私はメールを確認した。


『今日、一緒に帰ろう。近くにカフェがあっただろ?
講義終わったらそこで待ち合わせ。』


「夢の中にいるような気がしてきた…」

同じ大学で同じ講義を受けて、空き教室で一緒にお昼ご飯を食べて一緒に帰る。
大学生なら普通の恋愛も私には無縁だったから、この状況が夢心地だ。

「…でも、何か楽しいかも」



物語に出てくるような王子様との恋も素敵だけど、今は。



――ちょっと青春してきます。


End.

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卒業式帰りだったのか、袴姿の女子大学生を見掛けて書き上げた話。
グレたんも、たまには学生っぽい恋愛をしてもいいと思うよ!



title by:ロストガーデン


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