大学の長期休暇を利用して、×××がアルタリア王国にやって来た。一気に執務を片づけたロベルトは、連日連夜デートに勤しんだ。
――しかし、それから数日後。
×××は体調が芳しくなくて床に臥せている。
●●●幸せ数えて夜が明ける●●●
そんな彼女に気が気でないロベルトは執務が無いのをいいことに、日夜×××に付きっきりである。
「…そんな、付きっきりじゃなくても大丈夫だから」
「でも、×××ちゃん顔色悪いよ」
ベットの中から青白い顔を向ける×××。甲斐甲斐しく看病するロベルトに、×××は申し訳なさでいっぱいだった。
いくら未来のプリンセスとはいえ、一国の王子に看病をさせる庶民がどこにいるのだろうか。
彼が心配してくれているのは分かっている。付きっきりで看病してもらうような事じゃないのに……。
「ごめん、ちょっと……」
口元を押さえると、×××は洗面所に入った。食欲が無いだけではなく、何やら気分も悪そうだ。
ふと、三ヶ月ほど前の事を思い出すロベルト。あの時も×××がアルタリアにやって来て――…
(ま、まさかこれって…)
何やら思い当たったロベルトは、三ヶ月前から今日までの×××とのやりとりその他諸々を整理した。…これしか考えられない。
洗面所から戻ってきた×××がベッドに入ってシーツを被るのを見届けると、ロベルトは部屋を出た。
向かう先はロベルト曰く“強面じゃなくてただただただただ怖いだけ”の彼の執務室。ロベルトが最も信頼しているアルベルトの部屋だ。
「アルー!!」
大きな音を立ててドアを開ければ、案の定ぴくりと眉尻を上げたアルベルトの姿。騒がしいとか紳士的な振る舞いでないとか怒られるのは後だ。
今は彼の知恵を借りる方が先決である。情けないとは思うが、ロベルトは一杯一杯だった。
「ど、どうしよう…×××ちゃんが…」
妊娠したかもしれない。
「…は?」
ここ数日の×××についてロベルトは事細かに説明した。それらから彼の導きだした結論、即ち×××の懐妊である。
しかし前後関係がまったく分からないアルベルトには意味不明だ。色々と言ってやりたい事も出てきた。
こほん、と一つ咳払いをしてロベルトに対峙する。お説教する5秒前に見えるのは、きっとロベルトの気のせいだ。
「…ロベルト様」
「はい…」
「身に覚えがあるのですか?」
「う……」
「一度二人で話し合うべきかと」
アルベルトの冷ややかな視線に居たたまれなくなったロベルトは逃げ出した。
*****
「×××ちゃん、具合はどう?」
「…ロベルト」
ベッドの中でうつらうつらしていた×××を、ロベルトが心配そうに覗き込んだ。
「何かあるなら言って。×××ちゃんの事なら何でも受けとめるから」
「ホント、何でもないから」
いつもにも増して過保護のロベルト。心配してくれるのは有り難いけれど、今の×××には正直ちょっと重かった。
出来れば一人にしてもらいたい。そうロベルトに言ったものの、×××ちゃんを一人になんかしておけない!と返されてしまったのだ。
「×××ちゃん、何か隠してない?」
「…隠してない」
「嘘」
「………」
外方を向いて、黙りを決め込んだ×××。そんな頑なな態度を取り続ける彼女に、ロベルトは困った顔をして小さくため息を吐いた。
「…そんなにも信用ないわけ?」
このままここにいたら、何かひどい事を言ってしまいそうだ。ロベルトは頭を冷やしてくると言って、部屋を出ていこうとした。
「……違う」
「え…?」
「…ロベルトを信用してないんじゃないの」
ロベルトを引き止めるように、×××がぽつりと呟いた。彼に信用されていないと思われるよりは、白状して笑われた方がマシだ。
「……胃もたれして気分が悪いなんて言えるわけないじゃない」
「やっぱりそうなんじゃ……って、胃もたれ?」
「恥ずかしいから言いたくなかったのに…!」
×××はロベルトの視線から逃れるかの如く、すっぽり頭までシーツを被ってしまった。胃もたれだと白状するのが余程恥ずかしかったようである。
「ははっ…何だ、そっか……」
一人で勘違いしていたロベルトも、穴があったら今すぐ入りたい気分になっていた。いくら何でも先走りすぎた。
乾いた自嘲の笑い声を漏らしたロベルトに、×××が訝しげに声を掛けた。
「…何だと思ってたの?」
「え?いや、何でもないよ!」
胃薬を貰ってくるからと、ロベルトは部屋を出ていった。
「…ロベルト様」
廊下でアルベルトがロベルトを呼び止める。
「どうせこんなことだろうと思いました」
彼が持っているトレーの上には水と薬。それを受け取ると、ロベルトは×××の部屋に戻っていった。
背後にアルベルトの視線を感じ、走りたくなるのはぐっと堪えた。
「…はい、お水と薬ね。飲んだら気分も良くなると思うよ」
「ありがとう」
起き上がって水と薬を受け取り口にすると、×××は再び横になった。さっきよりは心なしか体調が良くなった気がする。
すぐに薬が効いてきたというよりも、隠し事をしているという後ろめたさが無くなったからだろうか。
「……いつか、二人に似た子どもが欲しいね」
「…ロベルト、何か言った?」
「ううん。何でもないよ。」
×××の腹部を労るように愛おしく撫でるロベルト。その手の動きが心地好くて×××は眠りの世界に引き込まれていった。
「……おやすみ、×××ちゃん」
キミの中に新しい命が宿ったかもしれないと思った時、国と彼女ともう一つ守るべきものが増えたんだと心が震えた。
――本当に守るべきものが増えたその時は、またプロポーズさせてね。
End.
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ヒロインが妊娠したけどなかなか言い出せず…のはずが、
何故か勘違いロベルトの話になってしまいました... 申し訳ないです。
実際に子どもが出来たら彼はアットホームパパになりそうなイメージ。
Ay様、リクエストありがとうございました!
title by:Discolo