街で助けたおじいさんが実はものすごく偉い人で、私はその縁でパーティーに誘われた。
そこで出会った素敵な男性。王子様なんて遠い雲の上にいる存在だと思っていた。
キラキラと輝く夢の国。一夜限りの夢で終わるはずたったのに。

今、そんな王子様が私の隣にいる。誰よりも深く愛してくれる、大切な貴方。

――思えば、あれは一目惚れだったんでしょうね。





ファンタスティック・ヒーロー







早朝五時。私は小さな衣擦れの音で目を覚ました。

「……ん…ジョシュア様…?」

寝呆け眼を擦りながら名前を呼ぶと、その人――ジョシュア様はむくりと起き上がるところだった。
私の声に気づいたのか、ジョシュア様が体を起こしてこちらを見やる。

「…起きたのか。まだ寝ていてもいいぞ」
「ジョシュア様は…」
「一度部屋に戻る」

ベッドの下に脱ぎ散らかしたままの服。そこからシャツを取ると、ジョシュア様はそれを羽織った。
私はそれを横目で見ながら、働かない寝起きの頭で昨夜のことを思い出そうとする。

大学の連休とジョシュア様の公務の空きが丁度重なったので、ドレスヴァンに遊びに来た。
久しぶりにお会いするジョシュア様は、相変わらずいつものジョシュア様だった。
夜食におにぎりを作れと言って、真夜中に部屋を訪ねてきたジョシュア様。
内心苦笑しながら厨房に行こうとしたら、ベッドに押し倒されて――…

そのまま流され、今に至る。流された後の記憶はかなり曖昧だ。

「……おにぎり、良かったんですか?」
「…………………」

何も言わずに外方を向いたジョシュア様。その動きがあまりに大げさで誤魔化せていないものだから、私は思わず笑ってしまった。
そんな顔で睨んでも怖くないですよ。照れ隠しなのが見え見えですから。

「…楽しそうだな、×××」
「そんなことないですよ。楽しいんだとしたら、ジョシュア様がここにいるからです」

私はシーツの海から体を起こすと、ベッドサイドに腰掛けるジョシュア様の肩に頭を乗せた。

「…夢を見たんです」
「夢?」
「はい。ジョシュア様と初めて会った時の夢です」

初めて経験するパーティー。隣で平然とシャンパンを飲み干していくのを思わずガン見してしまい、睨まれた。
ちょっと怖い人だと思っていたら、その人から突然ダンスに誘われて戸惑った。あの時のジョシュア様の爽やかさは忘れられない。
更にノンちゃんの孫だと誤解されてドレスヴァンまで連れてこられ、誤解が解けた後は出国する為に徹夜で書類を書き上げた。

「…あの頃はこんな事になるなんて思っていませんでしたよ」


おにぎりを作るためだけに誘拐されて、再びドレスヴァンの地に足を踏み入れることになるだなんて。

何故かネルヴァンの王子様とも知り合いになって、またも誘拐される羽目になるだなんて。

ノーブル・ミッシェルのお城で朝日が昇るのを見ながら、ジョシュア様にプロポーズされるだなんて。



「でも、何であの時ダンスに誘ってくれたんですか?」

王子様スマイルのジョシュア様に声を掛けられた理由。私はいつか聞いてみたいと思っていた。
私の質問に対し、沈黙すること数十秒。渋々嫌々と言った感じで言い辛そうにジョシュア様が口を開いた。

「……あの時×××に声を掛けたのは、ノーブル様と近しい者なら、パイプを繋げるに越したことは無いと思ったからだ」
「あ、そうだったんですか…」

どうせそんな理由だとは思っていたけど、実際に聞くとショックかもしれない。


「だが…」

ジョシュア様の長い指が私の髪を梳く。その心地良さに身を任せていると、深紫の瞳がじっと私を見つめてきた。

「…それがお前じゃなかったら、声を掛けなかったかもしれない」


――嬉しい。

誰でも良かったんじゃなくて、私だったから声を掛けてくれた事が。


「…私も」

好きだと確信したのは随分と後だったけど、目が合ったその時から惹かれていたのかもしれない。

「たぶん一目惚れでした」

髪を透く、ジョシュア様の手が一瞬だけ止まった。…照れてるのかな?



カーテンの隙間から見える東の空が白んでいく。ジョシュア様が手を止めて静かに立ち上がった。

「…×××、また後で」

ちゅ、と小さな音を立てて額と頬にキスを落とすと、私の髪を一撫でしてジョシュア様は部屋を出ていった。
さっきまでただの男性だったのに、部屋を出ていく時には完全に“王子”の顔になっていた。



「…何か、負けた気分」

最初は怖くて融通のきかない人だとしか思わなかったのに、今ではこんなにも好きになってしまった。
それが嬉しくもあり、悔しくもある。きっとジョシュア様は、私がこんなにもあなたのことが好きだって知らないでしょうね。

微かに温もりの残るシーツに倒れこむと、小鳥の声をBGMにしてもう少しだけ微睡むことにした。

起こしてくれるなら、あなたの声で優しく起こされたい。



……と、そんな都合良くいくはずもなくて。

空腹で目を覚ましたら昼前だった。





――後からジャンさんに聞いた話。

朝食の時間になっても私が姿を現わさないのを不審に思い、ジャンさんは部屋まで呼びに行こうとしたんだとか。
だけども、ジョシュア様が「疲れているだろうから寝かせておけ」と言って止めたらしい。

「…あのジョシュア様が寝坊を許すだなんて、一体何があったんでしょうね?」

何やら言いたげなジャンさん。


……あ…穴があったら入りたい……。



End.

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ヒロインがちょっと大人になりすぎた感が…。
ジャンさんは何かあったと分かってる(笑)



title by:悪魔とワルツを


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