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我不想改変


滋賀が「落としたから直して」と言って、瑪瑙細工の根付けを持ってきた。確かこれに似た物を、その昔滋賀にあげた覚えがある。

「これ、若狭の瑪瑙細工けぇ?」
「忘れたん?アンタが明治の頃にくれたやつやんか」
「そやの。聞いてみただけま」

少し形は変わってしまうが、欠けた部分を削って整えればまだ十二分に使える。奥から工具箱を出してくると、作業を始めた。
滋賀は興味無さそうにしつつも、特にやる事もないので隣に座って手元の作業を見ている。

「滋賀、最近どう?」
「何が?」
「色々と」

うらと滋賀は、比較的仲が良い。気質の似ているところもあるし、この国が出来てからお隣さんだ。

「昔は“ウチも彼氏欲しい〜”って言うとったのになぁ」
「あー、若気の至りや。正直今はどうでもえぇし」

心底どうでも良さそうな声色で、滋賀が答えた。

「そういう福井、アンタは…って、アンタは女っ気ないもんなぁ」

親しい女性府県と言えば、ご近所の富山と滋賀と京都ぐらいだ。元々そういう事にはさほど興味無いし、それよりも物造りをしたり商売している方が楽しい。
そういう滋賀にも男っ気は無い。いつも近畿女子の面々と騒いでいるし、色事より商売の方が好きな質だろう。

…とか何とか思って作業をしているうちに、欠けた根付けが形になった。彫りまで欠けていたらどうしようも無かったが、端が欠けていただけなので素人のわりに上手く出来たと思う。

「…出来た。これでえぇ?」
「おおきに。福井は器用だから助かるわぁ」
「元々うっとこで作ったやつだし、直すぐらい簡単」

滋賀に修理の済んだ根付けを渡す。着物の袂から小さな巾着袋を取り出して紐に結ぶと、帯からぶら下げた。
巾着の中身を訊ねてみても、それは企業秘密だと教えてもらえなかったが。

「…さっきの話。アンタに彼女出来たらこうやって気軽に来れへんから、寂しくなるかもなぁ」
「まだそんな兆しも無いから安心しね」

繰り返しになるが、物作りや商売の方が楽しい。それに、こうやって滋賀と他愛のない話をしているのもいい。

「そっかー。ほな、まだ続くんか」

口ではそう言うくせに、表情はとても安心しきっていて。本当にこの女は――…

「…滋賀はおとろっしゃ奴ま」
「福井?何か言うた?」
「いんや、何も。……そうだ。滋賀ぁ、食べてくけ?」

立ち上がって用事の済んだ工具箱を奥に片づけると、代わりに出してきた羊羹を滋賀に見せる。
それを見ると、滋賀は嬉しそうな笑みを見せた後、照れ隠しに顔を背けて眼鏡を上げた。


End.

【お題】セリフでお題ったー
*滋賀が安心したように「まだつづけるの?」と言う恋の話をかいてください。

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