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よそ見厳禁


秋田が迷子になったと山形から電話がきた。何故山形が自分に電話を掛けたのか分からない。

“おら達東京の街は不慣れで、動けばまた誰か迷子になりそうで…。その、関東の人は茨城さんぐれぇしか…”

山形の言い分を要約すると、秋田を探そうと下手に動けばまた誰か(宮城か青森辺りが)迷子になりそうだ。
土地勘のある関東勢を頼ろうにも茨城ぐらいしか声を掛けられなかった、という事らしい。
東北勢には纏まって行動するように言い、自分も秋田を捜すことにした。山形曰く、新宿駅付近で見失ったとのこと。ちょうど自分も新宿駅にいる。着物姿で黒いロングヘアーの女性を目印に捜していくか…。(案外、あっさりと見つかるもんだべな)

捜し始めて十数分。駅の裏側、少し裏道に入った所で秋田と思わしき人物を発見した。というか、間違いない。
声を掛けようと近づいたところで、彼女の“異変”に気がついた。…誰かと一緒にいる。
知り合いにでも会ったのかと思ったが、秋田が山形をはじめとする東北勢を置いて単独行動をするとは考えにくい。

(…そういうことか)

秋田が知り合いを見つけて声を掛けたのではない。知り合いでない輩に秋田が声を掛けられたのだ。
うまくあしらうことも出来ず、話を切り上げることも出来ずに付き合わされているのだろう。
東京の街が冷たいとは言わないが、通行人も見て見ぬ振りをして通り過ぎていく。

「あなたの幸せを祈らせて下さい!」
「いや、その、お…私、帰らないと…」
「近くに集会所があるのでそこで祈りますんで是非!」

宗教かマルチか知らないが、嫌がっているのを無視して迷惑かけるような奴に幸せが祈れるか。
つかつかと早足で近づくと、後ろからぐいと秋田の腕を掴んだ。

「お祈りとか、結構なんで」

誰か気づいた秋田は、こちらを振り向いて安堵の表情を浮かべた。半ばパニックになっていたのだろう。泣き出す一歩手前だった。
しかし敵は諦めない。俺と秋田を交互に見やると、ヒートアップしてきた。

「そんな事言わずに!そうだあなたの幸せも祈らせて下さい!」
「遠慮する」
「そう言わず!」

さぁ行きましょうと調子の良い事を言いながら、男が秋田の手を掴んだ。…何だべ、こいつ。力ずくでその手を引き剥がすと、秋田を背中に隠す。

「…秋田、少しの間後ろにいろ」
「い、茨城さん…?」
「幸せを祈らせて下さい!」
「ごじゃっぺ!ほんとにきくじゃねーきこだな!」

口で言っても分からないなら仕方ない。少しばかり血の気の多かった幕末を思い出した。




*****

つまらない事に時間を取られてしまったが、山形に秋田を見つけたと連絡を入れた。
山形はすぐ迎えに行くと言ってきたが、自分が秋田を送っていった方が早い。
分かりやすい目印のある場所を指定して落ち合うことにした。

「あ、あの、ありがとうごぜぇます…」
「単独行動をする時は気をつけた方がいい」

実のところ、こういう場面に遭遇するのは今回が初めてでなかったりする。まぁ、大抵は捲し立てると居なくなるが。ちらちらと後ろを振り返りながら、彼女が付いてこれる速度で改札口に向かった。


(秋田は、)


――本当に危なっかしくて目が離せない。










(無事に東北の皆様と合流した秋田さん)

「秋田!心配しただ!」
「山形ぁ!おら、みんなに心配かけて…!」
「何も言うな。怖かったろ?今日は早いとこ帰るべ」
「…だべな」
「本当に何もなくて良かっだ。茨城さんが見つけてくれんかったらと思うと、おら…」
「!!!!」
「秋田?どした?」
「な、何でもねぇ!」


End.

【お題】ときめき台詞吐かせたー
*茨城が秋田に「だらしのねえ奴だ。おらよ、俺の後ろにいろ。邪魔すんなよ」と言うのはこれが初めてでは無い。

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