慣れてない彼のセリフ
1.仕方ないだろ初めてなんだから
「なー、茨城」
書類に書かれている所要時間と交通手段と睨めっこをしていると、千葉が声を掛けてきた。
次にひょいと紙を覗き込むと失笑した。…失礼な奴だっぺ。
「そんな大真面目にシミュレートしなくていいと思うんだけど」
――たかが俺ん所にあるテーマパークじゃん。
千葉。お前にとっては“たかが”テーマパークかもしれないが、こっちからすれば“あの”テーマパークなのだ。
科学的な夢は好きだが、メルヘンな夢は苦手だ。でも、彼女に「茨城さん一緒に行きませんか?」と言われたら、腹括って行くしかない。
「だってさ茨城、計画立ててその通りに回るだなんて、かなりの上級者じゃないと無理だし」
「……」
そんなこと、千葉に言われなくても分かってる。
仕方ないだろ、初めてなんだから。
***
2.そういうことは早く言えよ!
「なー、茨城」
「…またお前か」
千葉がいつものように、お気楽な感じで声を掛けてきた。こっちは明日のことで一杯一杯だというのに。
シミュレートは何度も繰り返した。余程の事件や事故が無い限り、計画通りに事を進められるだろう。
「この間も言ったけど、計画通りに回るのはまず無理だから、あんまし気負うなって」
「言われなくても分かってるべ」
しかし、生まれ持った性質は変えられない。
「明日、雨だってな」
「あめ?」
「結構降るって天気予報のお姉さんが…って、もしかして天気予報チェックしてなかった?」
「そういうことは早く言えー!」
――結局、計画の立て直しとシミュレートは日付が変わるまで掛かった。もちろん、千葉を付き合わせて。
***
3.からかって楽しんでないか?
「なー、茨城」
「………」
「昨日のデー「黙秘する」
今日ほど千葉に会いたくないと思ったことはない。関東全体での仕事が無ければ、家に鍵を掛けて引きこもったのに。
「予報ほど雨も強くなかったし、空いてて良かったじゃん」
「まぁ、それは…」
「で、どうだった?」
「………」
「着物だった?洋服だった?」
「…洋服」
「手とか繋いじゃっt「黙秘する」
「茨城のケチー。聞かせろよー」
千葉……お前、絶対にからかって楽しんでるべ。
***
4.やめろ思い出させるな!
「なー、茨城」
「…黙秘権行使中だべ」
「勝手に想像するからいいよーだ」
「やめろ」
「じゃ、教えろ」
「い・や・だ・べ」
千葉が想像しているような事は何も無かった。ただ、「今度山形と行くからその予習です」と言う彼女に付き合っただけのこと。
「あ、茨城。それって…」
「!?」
「何だかんだ言っても、ちゃんとお土産買ってきてるじゃんか」
「………」
関東の皆さんにお土産…って、おらが買うなんておかしいですよね…関東の皆様に一東北がおこがましい…
そもそも茨城さんと一緒に出掛ける事自体、図々しい事で…ごめんなさいごめんなさい…
妙なスイッチが入ってしまった彼女を宥め、自分が責任持って配ると言って受け取った物。
千葉が見つけたクッキーの缶には、テーマパークのキャラクターが描かれている。…彼女が一番好きだというキャラクター。
折角だし記念にと、そのキャラクターの携帯ストラップを買ってプレゼントした。その時の彼女は――
「…痛って!何すんだ茨城!」
「うるさい!千葉のせいだべ!」
これ以上思い出させるな!!
***
5.恥ずかしいのは俺だけかよ
「…そんな事があったんですか?」
「まぁ…」
それから少しして、秋田と会う機会があった。千葉とのやりとりを掻い摘んで話したら、なかなか面白かったらしい。
「憧れの佐竹の殿様の故郷」から少しは打ち解けてくれていると思っているが、実際秋田がどう思っているかは不明だ。
「…あのストラップ、ちゃんと付けてます」
「そう、ですか…」
携帯電話に付けたストラップを着物の袂から覗かせる秋田。その表情は、あの時と同じで嬉しそうだ。
「…今度は」
どこに行きたいですか?なんて聞けなくて、妙な照れと恥ずかしさを隠すのに精一杯だった。
(陰で覗き見していた人達が、恥ずかしいのは見ているこっちかよ!と言っているかは分からない)
End.
(確かに恋だった http://have-a.chew.jp/)
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