uctk | ナノ


朝焼け


全国都道府県会議の翌日。東京都内のビジネスホテルの一室で、大阪は朝早く目が覚めた。
前日の会議は遅い時間まで結論が出せず、結局新大阪行きの最終新幹線に間に合わなかった。
今宵の宿をどうすべきか途方に暮れていたところに東京がホテルを手配してくれたので、その厚意に甘えることにした。

「二度寝する気にもなれへんなー…」

ベッドから起きあがり、うーんと一つ伸びをして洗面所に向かう。顔を洗うと頭もすっきりしてきた。
近くのコンビニまで朝食でも買いに行こうかと部屋を出てエレベーターホールに出る。…非常階段の扉が開いていた。
そう言えば、このホテルは屋上に出られると東京が行っていた。折角だし、屋上に行ってみようか。
早朝なので一応足音に気をつけて鉄製の非常階段を上がり屋上に出ると、朝の風が気持ち良かった。

(ん?誰かおる…?)

誰かが早朝の街を柵越しに見下ろしていた。

「…あ」

優しげだが、心の強さも垣間見える端正な顔立ち。…福島だ。
福島は扉の隙間から覗いている彼女に気づくと、表情を緩めて大阪の名前を呼んだ。

「早いな、大阪」
「何か目が覚めて、二度寝する気もならんかってん」
「おらも似たようなもんだ」

福島の隣に立って、同じように大阪も柵越しに早朝の街を見下ろした。
おそらく早朝ジョギング中であろうオバチャンが道路を横切っている。

「…おらほの田舎と比べたら、東京せわしね。けど、朝は静かだ」

新聞配達のバイクの音、出勤のため足早に駅へと向かう人、おそらく始発の電車の音。
昼間とも夜中とも違う東京の街がそこにはあった。

「そだ。大阪、コーヒー飲めるか?」
「コーヒー?飲めるけど、それがどうかしたん?」
「間違えて買ってしまったんだべ」

苦笑しながら福島は大阪の手に缶コーヒーを握らせた。自販機でよく見るそれには、微糖と書かれていた。
もう一つ、福島の手に残っている缶には無糖の文字。

「…福島も可愛いとこあるんやな」
「ん?めんげぇのはおらじゃなくて、大阪の方だ」

欲しいのはボケかツッコミであって、決して今のような返しではない。誰か福島にタライを落としてくれ。
しかし今は缶コーヒーの事もある。ハリセンでツッコミを入れたいのをぐっと堪えて缶コーヒーのプルタブを起こした。
同じように隣で福島もプルタブを起こすと、コーヒーを飲む。白い喉元が上下するのを、大阪はちらりと横目で見やった。

「…大阪」
「何?」

見ていたのがバレたんか!と、大阪は一瞬焦ったが、福島は見られていた事に気づいていない様子だった。
朝日を背にする大阪を眩しそうに見て。さっき屋上にやって来た大阪の姿を認めた時と同じように表情を緩ませて。


「おはよう、大阪」


――少しずつ、東京の街に騒音が戻ってきた。


End.

prev / next


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -