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言えないこと


あれま、珍しい。

石川のぼんに言われて来てみれば、久しく見なかった福井のむくれ顔でぶすり顔に驚いた。
ぼんが「うら一人じゃどうにもならんから富山助けてや」と泣きついてきたのはこの事か。
おあの顔をちらっと見ただけで、むっつりと黙り込んだまま文机の前に座っている福井。その文机がぼん御自慢の品であることは、見なかったことにしよう。
仕方がないので針箱を開けて繕い物の続きをする。先程まで別室でやっていたのだが、ぼんに福井の様子を見てくれと追い出されたのだ。

「何があったが?」
「…別に、何も」
「なら、そんな顔しられんな」

そう言い放つと、福井はぺたんと倒れて文机に額をつけた。はぁぁと大きなため息が聞こえる。これまた珍しい。
福井は顔だけこちらに向けると、理解出来ないと言わんばかりの表情でポツリと。

「うらの、」

それはあまりに重たく、まるで血を吐くように。

「うらの一番が誰なんて、そんなの…」

何となく見えてきた。深く聞くつもりはないが、福井のむくれ具合を見る限り、言わなくても伝わると思っていたのだろう。
賢い聡いということは、時に相手にも同じものを求めてしまう。これが仕事の話なら、彼女だって言われなくとも察しただろう。彼女も賢く、聡いから。
しかし、彼女は察してくれなかった。いや、本当は察していたのかもしれないが、福井から直接聞きたかったのだろう。

「…おあが思うに」

針仕事の手を休めて、福井の方を見やる。福井だって分かっているはずだ。ここでむくれていたって何の解決にもならないと。
好いた女子の前でだてこきたいのは分かるが、直接言わねば伝わらない事もある。…と、これは誰かの受け売りだが。

「その続きは直接言うちゃれ」

石川のぼんも襖の陰に隠れながら、口パクでそう言っている。そんな所におらんで、こっちに来ればいいのに。
とは言え、今さら出てこられて福井がさらに臍を曲げても困るので、今は出てこないようにと視線を送る。

「はや、行って来られ」


End.

【お題】セリフでお題ったー
*福井が血を吐くように「一番が誰か、なんてわかりきった事だろう?」と言う愛のある話をかいてください。

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