マグレブ


無事にカメラも直り、片づけて先にお城の中に戻るルイスさんをリュークさんと二人で見送った。
何故か二人とも足を動かそうとせず、柵に手をついて視線を夕日に向ける。

「綺麗な夕日ですね…」

夕日を反射する海。ノーブル・ミッシェルが海に囲まれていることを思い出した。
私もリュークさんも、何も言わずに海をぼんやりと見ている。…何となく、離れがたかった。
羽を大きく羽ばたかせて空を飛んでいく鳥と、ゆっくりと海の中に消えようとしていく太陽。

「……日没だな」

そう呟いたリュークさんの横顔は、夕日に照らされて黄金色に輝いている。

「あ、一番星」
「え!どこですか?」
「ほら、あそこ」

リュークさんの指差す方向に、柵から身を乗り出して顔を向ける。

「危なっ」
「……っ!」

柵についていた手がずれて、バランスを崩して下に落ちそうになるのを、リュークさんが慌てて腕を掴んで支える。
掴まれた腕の痛みよりもその近さに言葉を失い、気づいた時にはもう遅く、リュークさんと目が合った。


――目を、逸らせない。


心臓の脈打つ音が、頭の中で反響する。今なら体のどこを触っても、はっきりと脈を取れるだろう。
ゆっくりとリュークさんの顔が近づいてきて、私は目を閉じた。すぐそこにリュークさんの吐息を感じる。

そして――…


――PRRRRR!


携帯電話の着信音で我に返り、思わず二人して飛び退いた。

「……はい、リュークです。…かしこまりました。すぐ向かいます」

通話を終えたリュークさんが、がしがしと頭を掻きながらこちらを向く。その表情は、ちょっと申し訳なさそうだ。

「キース様、会合が終わったから迎えに来いって」
「そうですか……」
「俺は先に戻るけど、風邪ひかないうちにお前も戻れよ」

そう言って、入り口に走っていくリュークさん。――ふと足を止めてこちらを振り向くと、戻ってきた。

「……またな」
「!?」

今度こそ、リュークさんは振り向かずにお城の中に入っていた。

(…………)


優しく柔らかな熱が押し当てられた頬。夕日の反射以上に赤くなっていた去り際の表情も、はっきりと脳裏に刻まれた。
もしあの時、リュークさんの携帯電話にキース様からの着信が無かったら、今頃私達は……。

――そっと頬に触れてみる。


気のせいか、燃えるように熱かった。


End.





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マグレブ=太陽の沈む方角、だそうです。
リュークはかわいく、かっこよく。



title by:ペトルーシュカ



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