左手薬指の絆創膏


「……終わったぁ!」
「×××ちゃん、お疲れさま」

ユウお兄ちゃんの助けもあり、私は課題のレポートを思ったよりも早く終わらせることが出来た。

「ユウお兄ちゃん、手伝ってくれてありがとう!」
「どういたしまして。大学っていうのも、何だか大変そうだね」
「課題は大変だけど、楽しい事も多いよ」
「そう?それなら良かった」

ふと何か思いついたように「ちょっと待ってて」と言い残し、ユウお兄ちゃんが部屋を出ていった。
何かあったのだろうかと疑問に思っていると、すぐにティーセットを手にして戻ってきた。
部屋の中にふわりと漂う、シナモンの甘い香り。

「疲れが取れるらしいから」

当たり前なんだけど、慣れた手つきでティーポットからカップに注ぐ動きが様になっている。
その所作に見入っていると、音もなく滑るようにテーブルの上にカップが置かれた。

「お待たせいたしました。熱いのでお気をつけ下さい、お嬢様」
「ふふっ。ありがとうございます」

ミルク入りのシナモンティーで疲れを癒していると、横でユウお兄ちゃんがパラパラと文献のページを捲っていた。

「何か面白いものでもあったの?」
「いや。×××ちゃんは普段こんな事を勉強しているんだなぁと思って感心していた」

興味深そうに尚もページを捲っていく、ユウお兄ちゃん。――不意にその手が止まった。

「…………」

ユウお兄ちゃんが自分の指をじっと見ている。紙で切ったのか、薬指の腹にうっすらと赤い線が走っていた。

「だ、大丈夫!?」
「これぐらい平気だよ」
「消毒とか…」
「舐めておけば大丈夫」
「でも、ばい菌とか入ったら…!」

私は慌てて鞄の中からポーチを引っ張り出すと、絆創膏を取り出した。

「せめて絆創膏ぐらい貼っておいて」

私はユウお兄ちゃんの手を取ると、強制的に絆創膏を巻いた。ユウお兄ちゃんの手は、男の人の手にしては白くて細かった。

「×××ちゃん、ありがとう」
「勝手に貼っちゃったけど、よかった?」
「今日はグレン様の会合が終わったら帰るだけだし、大丈夫だよ」

ポンポン、とユウお兄ちゃんの手が数回私の頭に触れた。

「……剥がしたくないね」

意味ありげな微笑を浮かべると、ユウお兄ちゃんは私が巻いた絆創膏をそっと撫でた。
その表情が何だか色っぽくて、私は視線を逸らしてティーカップに口をつけることしか出来なかった。


End.


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ユウお兄ちゃんに対しては、幼馴染みのお兄ちゃん像がどうしても抜けません…。
まぁ、その曖昧さに萌えるんですけどね!



title by:ペトルーシュカ



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