お代は寿命三分間


「…………」

頭上から何だか冷ややかな空気が降りてくる。あぁ、階段を駆け下りている所を一番見つかってはいけない人に見つかってしまった。
廊下を走るな、音を立てるな、レディたるもの常日頃から淑やかに。出会って以来のお小言の数々を枚挙すればきりがない。

「――先に言い訳から聞きましょうか」
「どうしても午前中に図書室に行かなくちゃいけなかったからです…」
「図書室?」
「えっと、その、レポートの文献がどうしても見つからなくて…」
「そうでしたか」

もっと色々言われるかと覚悟していたのに、思いの外早くクロードさんは話を切り上げて階段を下りていく。
眉間に皺を寄せて怒られなかった事にほっと安堵していると、下からクロードさんの声が聞こえた。

「何やってるんですか。置いていきますよ」
「え?」

降りた階段を再び上って踊り場に戻ってくると、クロードさんは今度こそ眉間に皺を寄せた。

「午前中に図書室に行かなくてはいけないのでは?」
「そ、それはそうなんですが…」
「……ここの図書室を見たことありますか?」
「いえ」
「小さな町の図書館に匹敵する程の膨大な蔵書があるんですよ。あなた一人で目当ての文献を探し出せるとは到底思えません」

そうやってクロードさんに淡々と言われると、探すぞと意気込んでいた気持ちがしぼんでいく。
午前中だけという条件があるので、見つからなかったらそれで終わり。赤点覚悟のレポートを提出する羽目になりかねない。

「定例会議も先ほど終わりましたし、ウィル様達の会合は昼過ぎまで掛かります」
「?」
「だから、手伝うと言っているのです」
「!?」
「その顔は一体何ですか。そんなにも意外でしたか?」

心外だと言わんばかりの表情を浮かべるクロードさん。その口振りで察しろという方が無茶ですよ!
……まぁ、そんな私の心の叫びなんて全く気づいていないんだろうけど。

「ですが、その前に…」

クロードさんはさっと辺りを見回すと、私の腕を強く引いた。引かれた勢いで、クロードさんの胸に顔を埋める格好になる。
突然の出来事に加え、微かな香りに擽られたことで、私の胸はあり得ないほどに脈を打ち始めた。

「ななな、何ですか一体…!?」
「……あなたには、本当に手を焼かされる」
「もしかして、さっきの事ですか…?」

クロードさんは否定も肯定もせず、素早く顔を寄せてきた。――無音で唇が重なる。

(……っ!)

その間、わずか一分足らず。たったそれだけの時間なのに、私の唇はしっかり戴かれてしまった。…それこそ口内まで。
不意打ちにしては濃厚すぎる口づけに一人でぐるぐるしている私を見て、一瞬笑いを堪えるように横を向いたクロードさん。
再びこちらに顔を向けた時、その表情はいつものポーカーフェイスだった。

そして、いつもの調子で――…


「廊下は走らないように。他の人に助けられないように」


End.

−−−−−−−−−−
ディープキスをすると三分寿命が縮むらしい、というのを聞いて。
クロードさんは公私の区別をきっちりつける人だと思うけれど、
ごくごくたま〜に不意打ちをすればいいと思います(早業で)



title by:ペトルーシュカ



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