飛行機雲は空を割る


リュークさんにカメラを直してもらった後、ルイスさんは無事にノーブル・ミッシェル城から望む夕日を写真に収めた。
橙色の空にたなびく雲、黄金色した海の反射光。時折、優しい潮風が髪を乱していく。
私はルイスさんがここから見る海が好きだと言っていた事に納得した。向こうに小さく見えるのはシャルルの街並みだろうか。

「片づけまで手伝ってもらってしまい、申し訳ございません…」
「そんな、私が好きでやっているんだから謝らないで下さい」

三脚を畳みながら、ルイスさんが申し訳なさそうに目を伏せた。

「でも、カメラが直って良かったですね。こんなにも綺麗な夕日が撮れましたし」
「そうですね。サンセットの写真が撮りたかったので良かった」
「ここには何度も来ているのに、こんなにも綺麗な夕日だとは知らなかったです」
「×××様に知ってもらうことができて嬉しいです。…それに、今日の夕日はいつもよりも美しい気がします」

そう言って、ルイスさんは眩しそうに目を細めながら、再び視線を夕焼け空に向けた。
私もつられて空を見上げてみれば、一機の飛行機が夕焼け空を割るように飛んでいくのが見えた。

(あの飛行機は、どこに飛んでいくんだろう…)

ぐんぐんと高度を増して飛んでいく飛行機。それに合わせて飛行機雲も伸びていく。

「方角は東、ですね」

私は飛行機を見ていた事に気づいたのか、ルイスさんが答えてくれた。
東に向かって飛んでいく飛行機。――東には、私の故郷の国がある。

「…………」
「…………」

いつしか飛行機は夕焼け雲の中に姿を消し、残された飛行機雲が薄く広がっていった。
それも次第に空に同化して消えていき、橙色の空に紺色が混じっていく。

「…いつか、」

潮風で乱れた髪を手櫛で直しながらこちらを見ているルイスさんは、穏やかな微笑を浮かべていた。

「×××様の故国を訪れてみたいものです」
「え!ルイスさん、来たことが無かったんですか?何だか意外です」
「エドワード様の公務で何度か訪問はしていますが、その、そうではなくて…」


「――×××様と共に行きたいと」


ちょっと困ったように視線を彷徨わせたルイスさんは、恥ずかしそうにはにかみながらも、きっぱりとそう言った。


「……風が強くなってきましたね。体を冷やしてはいけないので、そろそろ戻りましょうか」
「あ、はい!」

さりげなく風上に立ちながらルイスさんが促す。


手を伸ばせば届くけれど、これ以上は踏み込めない二人の距離。
この距離がゼロになる頃には二人で機上の人となり、東に向かっているのだろうか。


城の中に入る前に、どこか名残惜しい気持ちで空を見上げてみた。


――薄明。

マジックアワーを迎えた紺色の空には三日月が浮かんでいた。


End.


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ヒロインをちょっと大人っぽくした。
二人してあと一歩踏み込めない距離感に萌えます。



title by:ペトルーシュカ



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