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「教授、」

声を潜めて呼びかけると、灌木の向こう側を睨みつけるように見ていたセブルスがうっそりとこちらに向き直った。


「お仕事の調子はいかが?」
「最近の若いものは盛りすぎではないですかな、これでは野生動物と変わらん」
「若いから仕方ないんでなくて?」

セブルスが見やっていた茂みの向こうを見ると、カップルがいたので 敢えて声を大きめに出して牽制する。それに気付いた男女は我に返ってあわてて校内へと戻っていった。


「ダンスパーティは?」
「十分お相手してきたので抜けてきました」
「マルフォイ家のものに比べたら 退屈でしょうな」


セブルスはルシウスやナルシッサ主催のパーティをうんざりとした顔で思い起こしていた。ふたりとも貴族の出なのでとても純度の高いパーティを催すのである。集まる人脈しかり、ゲームしかり、会話の内容しかり。ただの顔合わせかと思えば牽制しあったりと、何度か誘われているセブルスも到底慣れることなどできそうもない類だ。
逃げていく生徒を見送っているディアナを見やれば、なるほど夜会慣れした出で立ちだ。深い青のドレスが瞳の色によく合う。その胸元に目がいきそうになるのを堪えながらセブルスは 気付かれないように目をそらす。おお振りのネックレスで隠れてはいるが、これは男子生徒の目の毒ではないだろうか。ディアナが誰と踊ろうが、それは別段気にはしない。彼女にとってパーティというものは社交の場であって、他の生徒のようにイベントではないからだ。だからだろうか、慣れた出で立ちは子供っぽさなど微塵も感じない。小さい頃から見知っているセブルスは自身の中からうまれる親心と劣情とに戸惑って唇を引きむすんだ。ディアナはそれを逃げていく生徒に向けた表情だととってクスリと笑う。


「学校が公式で男女のイベントを設けてくれるんですもの、仕方ないのでは?」
「…スリザリンの才女殿もお忙しいことですからな。ダンスはディゴリーを選んだようだがどちらの生徒にするのだね?」


生徒たちの様子や噂はいやでも耳に入る。その中でもセレブなディアナと 見目が良いからと持て囃されるハッフルパフの男子生徒との噂は 職員室の姦しい女性陣たちの話題によく上がっていた。それがセブルスの耳にやけに残る。それが、小さな頃から知っている少女の話題だからか、彼女に好意を抱いてしまったからなのかーー自分の年の半分も下の少女に下心を抱くなんて なんて卑しいことだとセブルスは自分を嗤う。以前ディアナが 好んでセブルスの元にお茶をしにくるのだ、と言った時にはぐらりとしたが、聞き間違えだろう。今ではそんなことなかったかのようにいつも通りの態度に変わっている…が、ブルーエメラルドの瞳がこちらを見上げているのに気付いて、再び胸が騒ついた。セブルスは教師の面を必死に被る。


「なにかね?」
「…いいえ、なんでもありませんわ。あら カルカロフ校長」

植木の間から誰かをさがすようにして長身の男が姿を現した。長身の男ーーカルカロフはセブルスの姿を目視すると真っ直ぐにこちらへと歩み寄ってきたが、ディアナの姿をみて一瞬怯む。だが意を決したように寄ってきて、セブルスの腕を掴んで聞かれるのを恐れるようにセブルスの耳元に口を寄せる。

「お嬢さん、すまないが彼を借りるよ…」
「あら このままでも大丈夫ですわよ。印のことでしょう?」


驚いたようにディアナの顔を見たのはカルカロフだけではなかった。セブルスの目には「なぜ?」「どこまで?」と言葉がありありと浮かんでいる。


「マルフォイ家の娘ですもの。校長先生、父のことはご心配なく。わたしの父も彼の人が姿をくらました後で 言い逃れた身ですので」

にこり、とディアナは完璧な微笑みと「何か問題でも?」と小首を傾げた完璧なポーズでカルカロフを黙らせた。
校内でカルカロフと顔を合わせるたび、何か恐れるような表情で ディアナは避けられていた。水面下でまた動き始めているルシウスの噂を聞き及んだのだろう。逃げ出した身で帝王の報復を恐れているカルカロフからすれば、ディアナは信用ならない身である。しかし実の娘からルシウスがこれだけ言われてしまえば カルカロフは渋々と、ディアナへの警戒を残しつつもセブルスに言いすがった。


「君は気付いているか…いや、気付かないわけがない」
「…わたしは何も騒ぐ必要はないと思うが、イゴール」







ダンスフロアに戻ると、次々にダンスに誘われて断れないでいるセドリックの姿があった。ディアナは仕方ないわね、とフロアの中に入っていく。

「ごめんなさいね、返してくださる?」

もう一曲 と強請っている女子生徒に無言魔法で出した白薔薇の蕾を持たせて、セドリックから離す。花言葉は「愛するには若すぎる」だ。それに女子生徒が気付いたかは知らないがディアナに微笑みかけられて後ずさって パートナーの元へと帰っていった。

「ずっと踊ってたんですの? 馬鹿?」
「いや、断りきれなくて…」
「ほんと『いい子ちゃん』」

壁際に引いて行って、ドリンクとハンカチを手渡す。セドリックはグラスを傾けてミネラルウォーターを一気に飲み干した。


「優しすぎるのも身を滅ぼしますわよ」
「君が止めてくれた」
「腐ってもパートナーになることを了承しましたからね。手のかかる子だこと」
「…あぁ、」


何か合点したようにセドリックが目を見開いて、1人で苦笑いした。手に持っていたグラスを空いたテーブルに置いて、ディアナに向かい合って両手を握る。


「今はこれでもいいや」












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