09



ワリントン発案スリザリン共同開発のホグワーツ応援バッチはうまくいったようだ。一見セドリックを応援するバッチなのだが、仕掛けを作動させるとポッターを貶す内容になる。スリザリン生中心に ハリー・ポッターの選出が気に入らない生徒たちが 赤と緑のピカピカ光るバッチを付けるのが流行った。ドラコが面白がってワリントンから大量に譲り受けていたので、またポッターをおちょくりに行くのだろう。
ディアナはそれを改良して「ドラコ・マルフォイはわたしの天使!」「尊い」「可愛すぎて生きるのが辛い…」と自動でランダムに切り替わる痛バッチを作ってつけていたところ、ドラコに見つかって真っ赤な顔で怒られた。それまで誰もそのバッチに気づかなかったというのに騒ぎ立てたせいでディアナが弟の痛バッチをつけていたことは スリザリンで広く知られてしまった。ディアナは以前からブラコンを公表していたので恥ずかしいのはドラコのみである。後でパンジー・パーキンソンが「すてき!」「かっこいい!」バージョンで作れないかと聞いてきたのでひとつ作ってあげたのはドラコには内緒だ。




「大層な趣味ですな」
「それは『ダサい』と言っているのよね?」


放課後にセブルスの自室に押しかけると、迎えられたドア越しに開口一番そう評価された。ディアナの胸には「ドラコ まじ尊い…」の文字が「ブラコンで何が悪い」に切り替わって銀地に緑の文字のスリザリンカラーに輝いている。


「今流行ってるアレはお前が作ったのか…目にうるさくてかなわん、回収しろ」
「わたしじゃなくてワリントンですわよ。わたしはちょっと教えただけですわ。教授もポッターバージョンで要ります?」
「要らん!」


ドアとセブルスのわきをするりと通り抜けて、厨房で用意してもらったチョコチップクッキーの入ったバスケットをローテーブルに置いて、ディアナはいつもの位置に腰掛ける。


「でもワリントン家も 他のスリザリンチームの子たちの家も、現時点で 闇の賛同者ではなさそうで安心しましたわ。彼らの祖父や祖母の代が熱心な純血主義者でしたから」
「…それを調べていたのか」
「勢力を正しく把握するのは大事でしょう?ただでさえ、誰がデスイーターなのかを掌握していたのは帝王のみだったんですから」

教授でも全員は知らないでしょう?と暗に目線で尋ねる。

「わたしはただの末端構成員だからな。そんな重大なこと知る由もない」
「嘘。セブは帝王から頼られてましたわよ」
「…それは前世からの知識か?」
「それもあるかも。でもベラおばさまのヒステリックな嫉妬を覚えてるから事実でしょ?」

セブルスはうんざりした様子で額に手を当てた。過去に散々因縁をつけられたのを思い出したのだろう。眉間に深いシワがよっていた。

「今日はコーヒーでいいです?」

勝手にしろ、とセブルスが手をヒラヒラと振る。まだ額に手を当てて項垂れているところを見ると過去のベラトリックスとの絡みがフラッシュバックしたらしい。ディアナの身内なのでよく分かるが、あの人から敵意を向けられたらトラウマにもなる。なにに対しても苛烈な人だから。
ディアナは茶器棚にもなっている薬品棚の一角を探って、勝手にコーヒーを淹れていく。ドリッパーに魔法のかかったペーパーを敷く。豆を計っていれると ペーパーがむしゃむしゃと咀嚼するようにして豆を砕いて(挽いて)くれるのだ。それにお湯を注ぐだけ。このペーパーの難点は 魔法ペーパーのお値段と豆の品質によって挽きムラがあることだろうか。いい魔法ペーパーを使うときちんと挽くし、いい豆をいれるとペーパーも張り切って咀嚼する。あとはペーパーを丁寧に扱うと 煽てられてくれて、美味しく淹れてくれる。ちょろいペーパーだ。
淹れたカップをセブルスにも差し出すと、香りを嗅いで「悪くない」と口に含んだ。フラッシュバックは落ち着いたようだ。


「ねえ、校長は何を考えてるんですの? 裏社会が騒ついてる今期に対抗試合はするし、ドラゴンの搬入とかいって外部の人間をホグワーツに入れるし、もしかしてハリー・ポッターは狙われないとでも思ってるんですの? いくら教授がお守り役をしてても 無謀を勇気と履き違える筋金入りのグリフィンドールですわよ?」

好奇心は獅子をも殺すを地でいく勢いで 例年それぞれのイベントに頭から突っ込んでいく少年である。もちろん今年もがっつり巻き込まれていることを知っているディアナはクッキーをかじりながらソファに身を沈めた。ディアナ自身の進路やプライベートを忙しく過ごしているが目に余るほどほどにホグワーツのセキュリティはガバガバなのだ。

「校長は、その刺激こそがやつを成長させるのだと言っている…成長も何も 現状をかき混ぜるためにやつを使っているだけのようにしか見えんが」
「校長もグリフィンドールでしたわね。ほんとに変態的。大衆のための犠牲の 何がいいのかしら」


セブルスもディアナも自身のために動いている。ダンブルドアの思想は理解不能だが、目指す結果のためには従わざるを得ないのが、ディアナはとても癪だった。ダンブルドアからいえば、未来を知っているのに その最良の未来が崩れてしまうのを恐れて『予言』を聞くことができないでいるので、ディアナの扱いに困っている状態なのだろうが こっちの知ったことではない。これをうまく扱えないなら 偉大な魔法使いもそこまでなのだろうと思っている。
2人はクッキーを無心で噛み砕いていく。ホロホロではなく硬めのクッキーを厨房にリクエストしておいてよかった とディアナは思った。

「オーロラとの共同研究、読ませてもらった。荒削りだな」
「まだ練習ですもの。次の研究はうまくやりますわ」
「…校長はお前が味方であることを完全には信用しておられない。神秘部にはポッターの予言も保管されている」
「わたしが帝王のためにそれを狙っているんじゃないかって? いい案ですわね、それ」


セブルスが息を詰まらせた。ディアナの軽い調子をみると それは冗談なのだろうが、その意を計り知れない。ディアナは気づかないふりでコーヒーのカップを傾けている。

「ディアナ」
「ごめんあそばせ、ダンブルドアの取り越し苦労が増えて寿命が減らないかしらなんて思ってないのよ?」

苦い顔をしたセブルスにディアナがくすりと笑う。その笑いにいつもの余裕は感じられない。監督生に進路にと忙しくしていることを知っているので、セブルスはディアナの八つ当たりのようなヘイトに目を細めた。

「…今死なれても困る。お前も疲れているならこんなところに来ずに自室で休め」
「疲れているからあなたのところに来たんじゃないですか」

はふ、とため息をついてカップの縁をなぞる。
ディアナは言い終えてからハッとした。如何に情報収集と研究とイノワンとの駆け引きとムーディへの警戒で疲れていようとも 口を滑らせたと。いつも息抜きで訪れているから、セブルスがその方向で意を汲んでくれないかと期待を込めて顔色を伺うと、向こうも驚いたようにこちらを見て眉間にしわを寄せていたので ディアナは口の中のコーヒーの後味がさらに苦くなったように感じた。


「そうですわね、休みますわ」
「…それが良かろう」

ぎこちない声で返ってきた返事を聞いて、ディアナは気を抜いていた自分を後悔した。小さい頃から良くしてもらっている仲なので多少の好意ならば怪しまれないが、今のは存外に込めすぎた。セブルスならば それを鬱陶しく思うだろう。避けられてしまうことがとても恐ろしかった。
自分の飲みかけのカップを魔法で綺麗にしてソファから立ち上がる。浮いたスプリングがぎしりと音を立てた。


「ごきげんよう」


ドアのところまで送ろうとしてくれるセブルスを押し切って、速やかに部屋から退出する。寮の部屋までの道のりは頭が真っ白でなにも覚えていなかった。









戻る
/

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -