05




オーロラ・シニストラは細っそりした立ち姿の穏やかな教師だ。
その涼やかな声で天文についての知識や読み解き方を卒卒と説く。トレローニーのようにモヤがかかって眠くなるようなそれでは無く、まるでプラネタリウムの解説のように未知の世界に引き込むものだ。
進路の誘い手がトレローニーでなくてよかったと ディアナは胸をなでおろした。能力はあるのに過去の栄光ににしがみ付いているような彼女が ディアナはとても苦手だった。占い学に関しては 3年生の最初の授業で「ウウウ、不吉だわ…あなたには蛇の影がある…」とバカにされたので、途中で取り辞めた。ちなみに天文学と占い学の違いであるが、統計学かセンスか というところである。


「あなたの星が果敢に火星に向かっていくのをみました。揺るぎないのですね?」


この手の視えない力に対する専門家は、ディアナの原作知識以上に未来が視えているのではないだろうかとおもうことがある。以前本人に確認したところ そういう訳ではないのだというが、全てを見通すような構えが見て取れるのだ。

「はい、先生」
「無言者になるには推薦や勧誘しかありません。あそこは閉鎖された空間ですからね、そのためには実績を積まねば…。書いてきてもらった小論文については添削して、出来がよければ公(おおやけ)に出します。
ディアナ、今年は忙しくなりますよ…。フフフ 覚悟の上でしたね」





進路についていろいろと話をして、いつの間にか随分と時間が過ぎていた。ありがとうございました、と天文台を降りてもうすっかり暗くなってしまった廊下を行く。
廊下の壁際に灯された足元を照らすろうそくがジリジリと揺れ、ディアナの影をゆらゆらと揺らす。悪い予感がして早足で地下へ急いでいると、廊下をコツコツという硬いものが床を叩く音が響いてきた。正面に目を凝らすと、足を引きずるようにしながら恐ろしい顔面の男がこちらへと向かってくる。


「Ms.マルフォイ、夜間にこんなところで何をしておるのだ」
「…ムーディ先生。シニストラ先生にご指導を…先生からも夜間に出歩く許可証をいただいてますわ」

ローブからシニストラの筆跡で書かれた許可証を取り出すと、ムーディは顔を寄せて そのグルグルと回る青色の義眼で審査する。近くで見るとムーディの顔は歴々の傷跡で、まるで彫刻師が心の赴くままに荒々しく削ったようだった。


「ふむ…シニストラの字だ。するとお前が無言者志望というのはまことであったか」

職員室ではどのような噂が流れているのだろう。気にはなるところだが、寮監でもないムーディに答える義務はない。


「口を閉ざすか…よかろう。スリザリンの血も頭脳も揃えた崇高な魔女…。お前の父親をよぉく知っておる、今に貴様の化けの皮を剥いでやる」

憎々しげに 歪んだ顔をさらに歪ませて、ムーディは体をずらして塞いでいた道を開ける。そして地下室の方向へ ビッ、と指し示した。「はやく寮へ帰れ」というところだろうか。


「あなたはお上手ですわね、俳優でもおなりになったら成功していたでしょうに」

「なんだと?」
「あともう1つ、義足じゃ足音が響いて 気付かれてしまいましてよ。闇払いから足を洗ったら? ああ、もう引退されてましたわね。やはり耄碌して実戦では役に立たなくなったから?」


では御機嫌よう ミスター。
ローブの端を摘んで小さくお辞儀をしてみせ 、ディアナは歩き去った。言い方が刺々しくなってしまったのは仕方ない。先日はかわいい弟を痛めつけられたのだから。その後ろ姿が見えなくなるまで、ムーディは義眼でディアナをみつめていた。







それから数日、もうすぐ10月に入る頃。
ということは対抗試合の相手ボーバトン校とダームストラング校の代表生徒たちがホグワーツに来る日が近づいてきたということだ。日をおうごとに生徒たちはそわそわしだして授業に集中できなくなっていった。仕方ない、各魔法学校が場所の秘匿を徹して行っているため、他の学校の生徒との交流なんて皆はじめてのことなのだ。図書室で他校のことを調べる生徒や、親に情報を求めてフクロウを飛ばす生徒がよく見かけられた。

「ディアナはボーバトンにいくはずだったんでしょう?なにか知らないの?」

朝食の席でメアリがよく焼けたベーコンを口に押し込みながら器用に聞いてきた。ドラコがダームストラングを勧められていたように、ディアナもボーバトン入学を考えられていた時期がある。というのもナルシッサの「ボーバトンの制服はかわいいもの。この子にきっと とってもよく似合うわ!」という憧れのような理由だったので、近場に愛娘を置きたいルシウスの反対によってその話はなくなってしまったのだが。
口の中で咀嚼していたバゲットを飲み込んで、思い出すように思案してディアナが答える。周りに座った皆がその情報に興味津々だった。

「制服がかわいいことと、多くの国から生徒を受け入れているから生徒の総数がホグワーツよりも多いことくらいしか…。ここよりも温かい気候らしいから、皆 薄着でとてもオシャレだそうよ」
「フランスにあるんですものね…きっと素敵に違いないわ。お友だちになれるかしら?」


違う学び舎で過ごす まだ見ぬ同年代の子どもたちに想いを馳せる友人を優しく見守っていると、朝の配達物を届けにきたフクロウたちが大広間へと入ってきた。ディアナにも二羽のフクロウから別々の封筒が落とされる。
そのフクロウたちにソーセージを取ってやって、差出人の名前を確認すると、そのうちの1枚を慌てて伏せた。周りの生徒たちは自分宛の荷物や手紙を開けている最中でディアナの奇行は誰にも目撃されていなかった。差出人の欄に犬のような足型…あとで読もうとその1枚についてはローブの内ポケットへ入れた。
もう1枚の差出人はイノワン・ツヴェッキとある。


ーーハイ、ディアナ。はじめまして。
お父上から話は聞いているでしょうか、僕はイノワンといいます。もう少しで君に会えるね。たのしみです。
イノワン・ツヴェッキ



父の話を思い出して、ディアナは疲れたようにこうべを垂れた。この忙しい年に なんて面倒臭いことだろう。
他校の友人をつくることは まあ いいことだろう、と無理やりポジティブに思い直して、ディアナは残りの野菜スープを片付けることに専念した。










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