13



それから1週間に一度のペースで、ディアナはシリウスの元へと通った。厨房のしもべ妖精たちに用意してもらったローストチキンとサンドイッチをお土産に。
シリウスは久しぶりの食事にありつきながらディアナからその週にホグワーツであったこと、ネズミの目撃情報などを聞いた。特にハリー・ポッターについてをよく聞きたがったが、ディアナはスリザリン生であるためにあまり詳しく話すことができなかった。それでも内情が知れるのが嬉しいらしい。万が一に備え犬の姿で聞いているシリウスは、よく尾っぽを振っていた。ディアナは苦笑しながら毎回話を続けた。


「ポッターが大好きなのね…」
「俺にはハリーしかいない。ハリーにももう俺しかいない…そうだろう?」
「うーん、それについては分かりかねますわね」

そして粗方話し終わると、ディアナは空になったバスケットを持ってホグワーツへと帰っていく。落ち合う場所は禁じられた森の入口だったり、ホグズミードの時期になれば叫びの館だったりとまちまちだったが、彼女はその時になると必ず現れた。
シリウスがディアナについてわかってきたことといえば、優等生でありスリザリンの監督生であること、弟がいてハリーをライバル視していること、実家がひどい純血思想で反発したいが両親の手前大人しくしていること。そして予言者であることだ。
シリウスは血縁の能力者を思い出そうと目を細めたが、いかんせん実家のことを嫌っていたせいか家系図も詳しく思い出せない。
能力者はみな決まって短命だった覚えはあるのだが…。









ディアナはホグワーツ城に戻った。厨房にバスケットを返しに行こうと人目に付かないよう廊下を通り抜ける。


「随分大きなバスケットだが、どこへ?」
「あら、教授… またポッターの見張りですの?」


怪しげな羊皮紙の切れ端を持って歩き回るポッターを警戒しているらしい、セブルスは時間が空くと校内を見回っていた。距離を詰められてバスケットを取り上げられてしまう。


「厨房のしもべ妖精たちがいつも多めに用意するんですわよ…外で食べてきただけですわ」
「1人でか?」
「そんなわけないでしょ、わたし1人でその量は食べきれませんわ。…ドラコは冷たいし、監督生のペアの子はすぐ反発してくるし、どこかの誰かさんは忙しそうでお茶も誘えないし」

恨みがましい目を向ければ、セブルスは鼻で笑った。

「……いつもは勝手に来ているだろうが」
「校内の見張りや脱狼薬の調合でお忙しそうでしたし?」
「脱狼薬のことも知っているのか…わかった、今から来なさい。どこへ行っていたのかも吐いてもらうぞ」


そういうことになった。バスケットはというと、セブルスが転送魔法で厨房におくってしまった。






ポットから紅茶が注がれる。あたりに茶葉の良い香りが立ち込めた。鼻腔を通り抜けていく香りに、ディアナは身体中の疲れも解けていくような気がした。


「情報収集と根回しをしていたんですの。ランチはその報酬というか」
「…男か」


ディアナはピーター・ペティグリューを捕まえるために動いていたのだが、セブルスはデスイーターの動きを探るための諜報活動だと思ったらしい。過去に闇の勢力に加担していた者の子どもに接触しているとでも思ったのだろう。
紅茶を一口含んで鼻を抜ける香りをたのしんでいたディアナは「そうですわね」と生返事をしてしまった。
答えてから いけないと気付いたが、シリウス・ブラックも元生徒なわけだし嘘ではないかと開き直った。セブルスに至っては過去の確執があるから、シリウスについて知られてしまうと面倒臭いことになるのが目に見えていたので、これでいいのだとおもいこむことにした。


「まだ信用してもらえるまで通っている状態なので 目ぼしい情報はないのですけれど…教授はなにかありました?」
「クリスマスパーティの噂の件、探ってみたが…過去 デスイーターの館でブラックを見た者は誰もいないようだ」
「そう…じゃあブラックは仕組まれて?」
「わからん。しかしペティグリューの件では目撃者もいることだし、無関係ということではないだろう」

ディアナは あえて真実を知らないふりをした。いま真実を伝えてしまえば 話がかわってしまうという直感があったからだ。
先日のパーティの噂の件というのは…シリウス・ブラックが帝王を復活させんとしてポッターを狙うのだろうといううわさが飛んでいた。ルシウスに確認してもニュースになるまでブラックが「闇に通じていた」ことは知らなかったというし、側近だったセブルス自身もはじめからそこは否定している。
ということは、『この現実』でもシリウス・ブラックはペティグリューに濡れ衣を被せられており、帝王とペティグリュー以外はポッター家襲撃の詳細を知らないということだ。
セブルスにとって、今のブラックは 学生時代のトラウマであり 愛する人を死に追いやった憎き相手ということになるのだろうか。
やはりセブルスには、シリウス・ブラックとの密会については黙っておこうと思うディアナなのであった。


「脱狼薬のことを知っているということは、リーマス・ルーピンのことにも気付いているのだろうな?」
「ええ。次の満月は3週間後です?」

セブルスが防衛術講師の代理として来たのがつい先日だった気がする。OWLを控えているというのに不十分だと えげつない長さのレポートを週課題に出されたのでよく覚えている。

「さよう、調合を手伝いたまえ」
「OWLの勉強もあるのに ですか?」
「まだイースター前だ、才女殿には余裕だろう。もっと早くから分かっていれば はじめから手伝わせていた」
「だから言わなかったんですわよ」

苦い顔をしてみせたディアナを セブルスは鼻でわらった。









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