セドリック・ディゴリーがある日咳き込んでいた。参考書の貸し借りをするために落ち合ったのだが、話すことも辛そうだ。ディアナは風邪だろうかと首をかしげた。
日本ではエチケットとしてマスクをするが、ここはイギリス。マスクなんてものはまず余程重病でなければしないし、マスクするほどの体調ならば部屋から出ないで休んでいるのが普通だった。




「声変わりなんですって」


ディアナはセブルスの研究室にあるソファに座って思い返すように言った。
男性が思春期くらいになると声の質が変わることは知っていたが、まさかあんなに辛そうなものだとは思わなかった。人によるらしいが。


「魔法薬で症状を緩和させるものとかないのかしら」
「わたしに作れと?」
「まさか!」


成長期にあわせて、咽喉周辺の骨格や筋肉が発達するために声の質がかわるというメカニズムらしい。女性にも多少はあるらしいが、男性ほど顕著ではない。
そういえば年頃で魔法の詠唱を免除されている男子生徒がいたが、その中の何人かは声変わりもあったのだろうか。


「声変わりは病気ではない、成長の証だ。過度の痛みなどがなければ心配する必要はない」


授業の準備だろうか、セブルスが荷物を持って部屋を歩き回りながら諭すように教えてくれる。そういえば、セブルスの声は低くて耳に心地よくて…とても良い声な気がする。
こう、下腹部がむずむずするというか…。


「大人になるということだ、ディアナ」


背後から、しかも耳元で囁くように話されると、この声は劇薬だ。ディアナは すっ、と両手で顔を覆った。


「?」
「ハンサムなディゴリーもチョコレートボイスになったら大変ですわね…」


ディアナの赤い顔はしばらく冷めそうになかった。









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