12 3階の女子トイレ、いまはマートルでさえも避難中でこの階には人が寄り付かなくなっている。壁には秘密の部屋が開かれたとおどろおどろしい文字で書かれており、最初の犠牲者が出た廊下でもあるからだ。 「ねえ、ジニー。その日記を寄越してちょうだい」 ディアナは洗面所の前でこっちを見て金縛りにあったように動けなくなっている赤毛を見つめた。 「Ms.マルフォイ…気づいてたの…」 「当たり前だろう。君の話を聞く限り、彼女は予言者だ」 トイレの個室の影から長身のハンサムな男子生徒が姿を現した。ディゴリーのような柔らかな印象のハンサムではなくて、よく切れるナイフのような鋭さがうかがえる。 予言者、の言葉にジニーはびくりと体を震わせた。 「ずっと…わたしが犯人だって知ってたの…?」 「犯人はあなたではないでしょう、悪いのはこいつですわ。今すぐジニーから離れなさい」 男子生徒ーートム・リドルはジニーを後ろから抱えるように抱きしめて離さない。その顔には性格の悪そうな笑みを浮かべていた。 「なぁ、君…マルフォイだっけ? アブラクサスの孫?」 目が同じだ、とトムは可笑しそうに笑っている。 最悪だ、もっとスマートに日記を奪うつもりがトムが実体化して護りにはいるとは思わなかった。 実体を持てるほど、ジニーの力を吸っているということになる、彼女の青白い顔から察するにもう限界のはず。 やはり夏休みの間に応接間の隠し部屋に忍び込んで、日記を然るべき手順で処分するべきだったと悔やんだ。この日記がきっかけで後のマルフォイ家の待遇が変わってくるのだから。 「アグアメンディ!」 蛇口に向かって魔法を使い、水を操ってジニーからトムを離すと、その間に駆け入って隠していたジャックナイフを霊体に突き立てた。 このナイフは突き立てた物の魔力を吸収してしまうという一品で、上手くいけばトムの力を削ぐことができるはずだった。 後ろからの鈍い衝撃に、ディアナは体制を崩した。 「よくやった、ジネブラ…いい子だね」 「わたし…わたし……」 頭を殴られたらしい。トイレの床に倒れこみたくない一心でなんとか膝を立てて崩れ落ちると、トムがすぐそばに立っている気配がした。 「美味しそうな魔力だ…いいかい?」 「お願い、やめて…」 「我慢できないよ。さぁレディ、ぼくの力になるんだ」 その声を最後にディアナの意識はぷつん、と途切れてしまった。 |