09 誰にでも分け隔てなく接するスリザリンの才女。純血の血筋で、他の生徒よりも格段に大人びていて頼りになる。 以前からディアナに悩みを相談したことは大抵解決する、と謳われていたが、蛇騒動があってからはそれが更に一人歩きして「ディアナ・マルフォイの加護があれば無事でいられる」といったデマが流れた。 お陰で前年度以上にディアナは物を紛失したし、拝まれるようになってしまった。 エリックは以前にも増してディアナの騎士を勤めようとしたが、そのやり取りが完全に女王様と僕(しもべ)のようだったので、決闘クラブでの目撃情報も相まって皆は主従関係であると理解した。 ディアナの渾名も姫から女王様にランクアップしたが、廊下を歩くたびに拝まれるので疲弊して突っ込む気力も失せていた。 クリスマスも近づいてきて、皆が一斉にホグワーツ特急のチケットを買った。直前にゴーストまでが被害にあったのが、よほど恐ろしかったらしい。 ディアナは実体のないゴーストさえも石にしてしまう力に興味をもったけど、スリザリンの生徒たちでさえ恐れて話題には出したがらなかった。 ドラコといえば、ポッターを貶めようとすればするほど 秘密の部屋の継承者であると祭り上げられるのが気に入らないらしく、プリプリしている。このクリスマス休暇に家に帰れないのも堪えているようだーー両親が2人っきりで旅行に行きたいのでクリスマスはホグワーツにいるように、という手紙を寄越したのだ。その手紙に違和感を感じたが、ディアナは素直にまだ仲睦まじくしていたのかと思うことにした。 ディアナはクリスマス期間に学校に居残るスリザリン生のリストをセブルスに届けようと地下室を歩いていると、空き教室から手が伸びてきて引き込まれた。 やられた、と思った瞬間には憎々しげにこちらを見下ろす男子生徒が馬乗りになっていた。 「女性を押し倒すなんて、紳士たるスリザリンがやる行動かしら」 静かにその顔を見上げれば、去年からしつこく絡んできていたスリザリンの上級生が杖を向けてきた。 「黙れ、この売女め。レイブンクローのやつにもくれてやったんだろう?」 ディアナの体を舐め回すような視線に、ディアナは嫌悪感を募らせた。 「あなたが言っていることがよく分からないんだけど…これがいけない事とわかっていてやっているのね?」 無遠慮にローブの中を弄ろうとする手に抵抗すると、上から杖腕を押さえつけられる。これで魔法は封じられたというわけだ。 「良い思いをさせてやるよ、マルフォイ。そうすりゃ秘密の部屋の継承権は俺のものだろう」 ポッターが扉を開けた、という話の他にディアナがスリザリンの継承者であるという噂もあがっていた。 ディアナを組み敷いて蔑めることでその力が自分にも流れるとでも思っているのだと気付いて、ディアナはわらった。 「何が可笑しい!」 「本当に短絡的…。力を振りかざしても解決できることなんて何もないのよ、坊や」 爛々と輝くブルーエメラルドに、男子生徒は一瞬怯えて身を固まらせた。その隙を逃さぬようにディアナは反動をつけて身をよじらせる。いきなりのことで上に乗っていた男子生徒がバランスを崩した。それを腕を跳ねあげて完全に倒れさせてから、ディアナ はその上に跨った。 「悪い子にはお仕置きが必要ね」 ディアナは 顔を青くする男子生徒の鼻先に杖を構えた。 「遅いですわよ」 廊下を駆けてくる足音に次いで、ガラリ、と教室の扉が勢いよく開く。息を切らせたセブルスの姿を見て、ディアナは笑ってみせた。 「おまえ…怪我は…」 「強いていえば腰の打撲? フェブリーが無理に押し倒すものだから」 気を失った状態で拘束呪文をかけられている男子生徒を踏みつけて、ディアナはため息をついた。 セブルスの後ろから慌てた様子のマクゴナガルも到着して、ディアナは目を見開いた。 「マクゴナガル先生?」 「わたしが呼んだ」 この教室の真下はセブルスの自室になっている。教室の造りの関係で、パイプが2つの部屋をつないでおり…ちょうど船舶の操縦席と下のクルー室をつなぐパイプのように声を通してしまうのだ。 セブルスが、うるさくてたまらないということでこの部屋は空き教室となっていた。連れ込まれた時から 「この会話、セブルスにも聞こえているんだろうな…」とおもっていたが、まさか救援にマクゴナガルまで呼ぶとは思わなかった。 「Ms.マルフォイ、襲われたと聞きましたが 怪我は…?」 「ええ、大丈夫です。とっさに魔法をかけてしまって…正当防衛になりますか?」 マグゴナガルが倒れているフェブリーの様子を見てうなづいた。引き離すように、マグゴナガルはディアナの肩をやさしく抱えた。 「わたしは彼女を医務室に連れていきます、スネイプ先生は事後処理を」 「まかせたまえ」 セブルスの顔 すごく怖いわよ、と軽口を叩く前に マクゴナガルはディアナを医務室へと引っ張っていった。 |