08



ホグワーツの外に雪がちらつくようになってきた頃、ホットな話題で玄関ホールに人だかりができていた。掲示板を生徒たちが押し合いへし合い確認しては興奮した様子で何かを話している。



「決闘クラブが開催されるらしいわ」


情報通のメアリが得意げに教えてくれた。みんなが期待するほどのものではなく 茶番であることは、ディアナはよく知っていた。一緒に行きましょうと言う友人たちの誘いをやんわり断っていると、わざわざレイブンクローの集団の中からエリックがやってきた。


「ぼくはディアナと闘ってみたい…いいかい?」


付き合っているのでは?と噂されていた男女が決闘…しかも片やスリザリンの才女、片や聖マンゴ経営者の孫である。これはレベルの高い闘いになるだろうと周りの男子生徒は湧いた。女子生徒たちは止めてくれたが、ウィーズリーズたちも囃し立てたおかげで噂が広まってしまい、結局は決闘クラブに顔を出すこととなってしまった。


「姉さまならきっと勝てます!いくら大病院を経営している家柄だからって ちょっと調子に乗りすぎだと思っていたんです!ずーっと姉さまに張り付いていて!」

ディアナがエリックに名指しされたことは下級生にも伝わっているらしい。「けちょんけちょんにして下さいね!」とワクワクしているドラコを見て、ディアナはついに諦めた。そんなことよりも嫉妬する弟がかわいい。






いつもは食事のための長机が並んでいる大広間が、この時は様変わりしていた。邪魔になるようなものは取り払われ、金色の舞台が用意されていた。
ほとんどの生徒が出席しているのだろう、生徒たちは興奮した様子でそわそわと待っていた。
ロックハートが舞台上に現れたことで歓声をあげる者と落胆する者に別れた。ロックハートの後ろで怪しげに笑うセブルスが頼みの綱だ。


「ディアナ、来てくれたんだね…」
「逃げられないようにしたのはあなたでしょう?」


皮肉を込めて言うと、エリックは嬉しそうにわらった。本当に変な人だ。
ロックハートがセブルスに吹き飛ばされるイベントが終わり、いよいよ2人ずつに組まされる。メアリはハッフルパフの子と組まされて、心配そうにこちらを見ながら空いているところへと引っ張られていった。


「やっと2人きりになれたね」
「その言い回しとても気持ち悪いですわよ、自分でわかってる?」


ディアナは目を細めて嫌悪感をだして言ったが、それでもエリックは嬉しそうにくつくつと笑っているだけだった。
ざわつく大広間にロックハートの声が響く、杖で拡声呪文をかけたのだろう。相手の武器を取り上げるだけだというアナウンスが入る。
ディアナとエリックは杖を構えた。カウントダウンがはじまるーー1、2、3!
最初に唱えたのはエリックだった。


「エクスペリアームズ!」
「プロテゴ!」

武装解除を防ぐとディアナは畳み掛けるように杖を振った。


「グリセオ!(滑らせ)」
「プロテゴ!」
「ステュービーファイ!(麻痺せよ)」
「プロテゴ!!」


防御ばかりのエリックにディアナは舌打ちをする。守りの薄い彼の足元のスニーカーにむけて 巻き付け呪文を唱えると スニーカーの紐がしゅるしゅると解けてエリックの体を拘束してしまった。
バランスを崩して倒れ込んでしまったエリックの目の前まで行って、ディアナはたっぷり微笑んで見下ろす。



「これで満足?」


もう近寄らないでちょうだい、と続けようとしたディアナは固まった。
ディアナの足元に エリックが首を伸ばしてキスをしたのだ。
ディアナがブルーエメラルドの瞳を瞬かせて、その頭をいたくない程度に踏みつけるとエリックは嬉しそうに打ち震えた。



「…Mr.は変態だったのね」

「あなたから言われると褒め言葉ですよ」



周りの決闘も落ち着いてきていて、この異様な風景も注目を浴びてきた。こんな生徒でもレイブンクローでは尊敬を集める上級生なのだろうと魔法を解除して立たせてやる。


「やはりあなたは ぼくが思っていた通りの女王様だ」


うっとりした目で見つめるエリックに、ディアナは近寄らないでと杖を盾にして後ずさった。
蛇騒ぎが起きたのはその後のことである。それを見届けることなくディアナはいそいそと寮へ戻ったのだった。










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