07




「去年は石!今年は秘密の部屋! 奴は疫病神じゃないのか!?」



セブルスが苛々とぼやいていた。作業台の上には闇魔法やホグワーツ関連の書籍が積まれ、薬品で指先が黄色くなった長い指は忙しくページをめくっている。
秘密の部屋についての記述をさがしているのだ。
ディアナはそれを端に見やりながら、淹れてもらったベルガモットをすすっている。清涼感のある味がとてもおいしい。



「教授、取り寄せたマフィンが冷めますわよ。せっかく温めなおしたのに」
「お前がかってにお茶をしているだけだろう、わたしは仕事中だ」
「釣れない」


チョコチップの入ったマフィンを小さくちぎって口に運ぶ。ついでに、と一口大にちぎったものを魔法で浮かせて セブルスの口元まで運ぶと、渋々ながら大人しく口を開けてくれた。
ディアナは満足してにこりと笑った。


「生徒はみんなその話題で持ちきりですわよ。混血やマグル生まれの子はみんなビクビクして」
「こんな馬鹿な悪戯は終わらせねばならん」
「悪戯だと思いたい、の間違いでは? じゃないとそんな目を皿にして情報を集めたりしませんものね」


セブルスの黒い瞳がじとり、とディアナをにらむ。予言者は無闇に情報はもらせないものとセブルスも知ってはいるが、高みの見物を決め込んでいるディアナが恨めしかった。
ディアナは肩を竦めた。


「…何人か被害者が出ますわ。でも今年度中には収束します」
「ほんとうに疫病神じゃないのか」


セブルスはポッターを思い描いているのだろう。あまりに忌々しそうなのでおもわず笑ってしまった。









これ以上は仕事の邪魔だろう、とディアナはスネイプの部屋から出ると呼び止める声がした。


「ディゴリー」
「スネイプ先生から呼び出し?」
「そんなところかしら」


セドリックは納得してくれたようだ。物騒だから送るよ、と声をかけてくれたが思い直したように笑った。


「スリザリンのお姫さまが襲われるわけないか」
「ディゴリーもそれで呼ぶの?」
「違った、女王様だった」


ハロウィンの夜にミセス・ノリスが石にされ、犯行文が壁に書き込まれていた。「秘密の部屋は開かれた」と。スリザリンで純血のものは大丈夫だろうということでからかったのだろう。
笑っているディゴリーの手の甲を抓ると、ツボに入ったようでさらに可笑しそうに笑った。ディアナもむくれたふりをしてみせる。
2人並んでスリザリンの寮の方向へと歩き出す。


「最近ハッフルパフが好調じゃない。そうね、スリザリンの次くらいに」
「そりゃあニンバス最新モデルには負けるよ…他の寮も必死に練習しているからね、気が抜けないよ。あ、君の弟がシーカーをやってるんだっけ?」
「そう、ドラコがね。親のコネで入れてもらったけど箒は上手なのよ!この間のグリフィンドール戦は惜しかったけど…」


ディアナが小さい頃からのドラコの飛行センスを長々と話していると、あっという間に地下牢奥の壁の前についた。
ここがスリザリン寮への入り口である。


「送ってくれてありがとう、助かったわ」
「最近物騒だからね。…ねぇ、ディアナ。最近一緒にいるレイブンクローの先輩は君の恋人なの?」


ディゴリーはブルーエメラルドの瞳を伺うように見つめた。
今年になってディアナの隣でよく見るようになったレイブンクロー生……頭も良く、人当たりの良い人だ。今学期にはいってからディアナと並んでいるところをよく見かけてセドリックはそわそわしていた。
ディアナは驚いたようにセドリックを見つめて、すぐに意地の悪い顔をしてセドリック少年に顔を近づけた。後ろは冷たいタイルだし、前には麗しい顔があるしで 動くに動けないセドリックは顔を真っ赤にしてその場で踏みとどまる。



「恋人じゃなかったら『セドリック』はどうしたのかしら?」



それが初めて名前で呼んでもらったのだと気付いてセドリックは固まってしまった。からかい過ぎたかしら、と当人はころころと笑っている。


「親が見合いを勧めてくるだけよ。年上好きだけど、彼はないわね」










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