02 嵌められた…。 ディアナは内心青筋を立てて怒っていた。もちろん表面上はにこやかに相手に微笑みかけている。 事の発端は見合い話だ。旧家の名家、そして純血を貫く一族としては避けては通れない話しである。が、家族大好きで見合いをする気もないディアナは両親に再三「自分より劣る相手は嫌だ」と言い続けてきた。 両親から受け継いだ美貌、努力を持ってして学年1位を取り続ける頭脳、魔法のセンス。よっしゃこれで嫁入りを阻止する防御はできたと思っていたのに。 「ディアナ、と呼んでもいいだろうか」 「ええ、ミスター…光栄ですわ」 「ミスターだなんて固いな。エリックと呼んでください」 人が良さそうな笑みを浮かべる彼はレイブンクローの7年生だ。聖マンゴの理事の孫である。 秘密の部屋の発端となるリドルの日記、それを父の書斎から盗み出そうと画策して数週間。 ガラクタをボージンの店に売るというので、ついでに教科書も買いに行きたいわと言いくるめ付いてきて、ウィーズリーに渡る前に回収しようとしていたというのに。 偶然を装って見合い話の出ている相手と引き合わされ、「あとは若い人で」のノリで置いていかれ、今に至る。 「あー、エリック? 最終学年で忙しい時期でしょうに父が無理に勧めたんじゃないかしら」 「いや、ぼくも…その、君に興味があったんだ。こちらからお願いしたんだよ」 かなりいい人のようだ。 清潔そうな黒髪に鳶色の瞳。ディアナを見つめる様子に 相手がマルフォイ家だからといった確執や下心のようなものは感じない。純粋に好意をいだいてくれているようだ。 聖マンゴの経営者の血筋ということで、父の投資の仕事にも関係するのだろう、無碍には扱えないのがやりにくかった。 「そこのアイスクリームでもどう?新作がおいしいんだ」 「フローリアン・フォーテスキューね。わたしあそこのアイスクリーム大好きですわ」 にっこりと微笑みながら、ディアナは心の中で舌打ちをうった。 パラソルの下の席にエスコートしてもらって、エリックがアイスクリームを注文しているのをため息をついて眺めてた。遠くからでも目立つ燃えるような赤毛が通りをわたわたと走り回っているのが見えた。 「ウィーズリーズ!」 「おや、こんなところに姫が」 「やぁごきげんよう。なにを……おっ、デートか?」 エリックの後ろ姿をみてニヤリ、とジョージが笑う。 「そんなところ。…何か探し物?」 「探し物? その通りさシスター!」 「oh シスター、うちに泊まりにきてた大事なお客様が煙突飛行に失敗してね」 「横丁のどこかにいると思うんだけど…」 「どこかで見かけなかったかい、ハリー…」 「ポッターね。グリンゴッツの前に行ってごらんなさい」 双子の掛け合いは息が合っていて本当に見事だと思う。長々しいのが難点だ。 エリックがアイスクリームを持ってふらふらとこちらに向かってきたので、ディアナはそちらに向かいながらグリンゴッツのほうを指差した。双子はサンキュー!と走って行ってしまった。 その後ろから、せっかく追いついてきた彼の父親らしい赤毛の男性が また双子を追って行く。ディアナの目は 新作のアイスクリームに向かっていてもう見てはいなかったけれど。 「はぁはぁ、フレッドジョージ…なんで場所がわかったんだ?」 ハリーとも再会でき ひと段落ついたアーサーは双子の勘の良さを褒めたが、双子は顔の前で人差し指をチチチっと振った。 「ディアナ・マルフォイが教えてくれたんだ」 「俺たちの女神さ」 「なに、マルフォイ?」 驚くアーサーの後ろでロンが顔を赤くしていた。アーサーはアイスクリームパーラーの下にいた上品なツバの長い帽子をかぶった少女を思い出していた。白い肌にプラチナブロンドの髪。ずる賢そうな切れ長の瞳は、確かにルシウス・マルフォイに似ていたかもしれない。 「親父殿が話してる父親のほうとは全然違うぜ」 「話のわかるやつさ! ディアナにはなんでもお見通しなんだ」 息子2人が自慢げに言うのを、アーサーは疑った目で見て鼻を鳴らした。 |